他人の「劣化コピー」になろうとしてはいけない シャネルは、「すでにあるもの」に反発した

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行く先々で、どこで手に入れたか尋ねられたので、シャネルは欲しい人に作ってあげることにした。「あの着古しのセーターの上に私の成功があるのです。何しろドーヴィルは寒いですから」。あくまで自分らしくあり続けようというシャネルの反骨精神によって、彼女のデザインは輝くのだ。

シャネルと同様、あなたも自分にしかない何かを活かさなければならない。あなたの子ども時代はあなただけのもの。青春時代や学生の頃の体験、両親から受け継いだものも、誰にも触れることができないあなただけのものなのだ。

自分こそが唯一無二のオリジナルである

誰もが唯一無二のオリジナルな存在であろうとする。実は、他人と違うオリジナルな何かは、誰の中にでもある。皮肉なのは、ほとんどの人は誰か別の人になるのに忙しくて、それを見過ごしてしまうということだ。

クリエイティブな人は、自分らしくあるためなら、何でもする心の準備がある。そのためなら、良い経験も悪い体験も最大限活用する。自分らしく生きるというのは、それだけで唯一無二のオリジナルであるということだ。他の誰とも同じではない以上、何をやってもオリジナルなのだ。

普通の人なら、人前に出るときには自分を曝け出さないようにある種の壁を作るものだが、トレイシー・エミンというアーティストは、そのような垣根をかなぐり捨てて、自分の体験そのものを表現の主題として晒す。彼女の制作する詩的な作品には、普通なら人目に触れさせたいと思わないような物が使われる。

染みのついたシーツが起き抜けのまま無造作に放置されたベッド。交通事故で頭部が切断された叔父が、死んだときに持っていたタバコ。そして、エミン自身がベッドを共にした男性の名前がアップリケで縫いつけられたテント。エミンは、自分らしくあるためなら一切妥協しない。 

私たちは、人生のほとんどの時間を本当の自分ではない誰かとして過ごす。そこには、他の誰かになれという巨大なプレッシャーがある。誰かに期待されるような人になるということ。良い親であろうとすること。従順な会社員であろうとすること。他人のことを思いやる人、出来のいい息子、あるいは娘であろうとすること。自分らしくあるという能力を失い、やがては本当の自分を忘れてしまう。

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