「最強ホッチキス」で挑むマックスの欧米攻略作戦、新「規格」引っ提げ成熟市場突破を狙う
誰の机にも1台や2台は必ずある小型ホッチキス。その定価が1400円だったら、あなたは買うだろうか。このご時勢、普通なら目もくれないかもしれない。ところが、100円ショップの14倍もするこの高級品が、発売後半年経っても品薄の続く大ヒットとなっている。特にオフィスで働く女性たちからは絶賛に近い支持を得ているのだ。
なぜか。実に40枚もの書類を片手で軽々と綴じられるからだ。中型の卓上機で力いっぱい綴じても、最大30枚が限度。いかに画期的な製品かがわかる。名前は「バイモ11」。標準的な小型機の最大枚数20枚の「倍も」との意味が込められている。
もっと多く、もっと楽に 立ちはだかる針の限界
開発したのは国内シェア75%を占める小型ホッチキスの生みの親、マックス。40枚綴じの秘訣は、テコの原理を応用した「軽綴じ機構」と、分厚い紙束を突き通す独自針の開発だった。が、道のりは平坦ではなかった。同社が1952年に小型機を発売してからバイモにたどり着くまで、半世紀以上かかった事実に留意してほしい。バイモは業界ガリバーにとってさえ「冒険」だった。
もちろん、漫然と同じ機種を60年売ってきたわけではない。第1号の発売以来、耐久性やグリップの安定性など細部を徐々に改善。これらが企業や学校で認められ、67年、日本工業規格(JIS)認定を得る。78年には早くも幼児向けに最大10枚の軽綴じ機を開発。2002年発売した最大26枚の軽綴じ機は、当時、やはり女性たちから歓迎された。
しかし、ユーザーは一層の高機能を求めてやまない。「次の新機種開発は、どう攻める?」。06年当時の企画担当で、現マーケティングSEC課長の佐々木高行氏はそう同僚に問いかけた。佐々木氏が心ひそかに決めていたのは、中型卓上機を超越する「40枚綴じ小型機」だった。
問題は、どうやって針の限界を超えるか。小型機に使われる10号針(針足5ミリメートル)は26枚まで。中型機用の3号針(同6ミリ)でも、冒頭述べたとおり30枚が限度。3号針より足が長く、75枚綴じられる3‐10ミリ針を使う手があるにはあったが、3号系は太さが10号針の倍以上で紙との摩擦抵抗が大きい。その分、綴じる力を要するうえ、コピー時などに針を外すのが、またひと苦労。第一、小型化に向かない。「既存の針に固執していてはユーザーの問題を解決できない」。自然、新規格針の開発が焦点となった。
そこへ新たな「待った」がかかる。新針など、流通ルートが許してくれるのか--。そんな疑問の声が社内から上がったのだ。全国に普及している10号針や3号針なら黙っていても売れる。だが、実績のない新針は在庫負担を嫌う卸や小売りにとって、リスク以外の何ものでもない。白眼視されるおそれは十分あった。
安全策か、固定観念に挑むか。議論は割れたが、ニーズに応えられないとわかっている製品を作る妥協は企画側にはありえなかった。疑念には性能で答えを出すしかない。分厚い書類を貫通しやすく、かつ外しやすいよう、新針は10号と同じ太さにとどめつつ足を1ミリ延長。10号機への誤装填を防ぐため肩幅も2ミリ広げた。本体でも数々の工夫を凝らした結果、40枚綴じに必要な力は6・4キログラムと卓上機の6割減まで軽くなった。