「最強ホッチキス」で挑むマックスの欧米攻略作戦、新「規格」引っ提げ成熟市場突破を狙う
そもそもホッチキス事業は消耗品ビジネスの典型。今でこそトナー販売のキヤノンやリコーがその代表格だが、同様のビジネスモデルをマックスは60年前に構築していたのだ。10号という土俵が技術的にオープンで、参入障壁が低い点は弱みにも映る。しかしアジア勢の格安針でさえ、マックスを倒せない。針の座屈などの綴じ不良が少なくなく、業務用には使いにくいからだ。「他社針を使ったユーザーも必ずマックス針に戻ってくれる」と、近藤博了IR・広報室長。品質が低価格攻勢を寄せつけないレアケースといえよう。
加えてマックスは自動綴じ機でも世界シェア約8割と独走中。複写機メーカー側も自社開発より、トラブルが50万回に10回以下というマックス製品の供給を受けるほうが、保守費用まで考えると有利なのだ。小型機、自動機とも、いち早く圧倒的シェアを握った点ではデファクトスタンダード経営の先駆でもある。
難攻不落の欧米市場 カギは「文化」刷新
品薄を受け、マックスはマレーシアの生産ラインを1本から3本へ増設した。その視線の先にあるのは国内はもちろんだが、実は手つかず状態にある欧米市場が次の標的だ。東南アジアでは首位を獲れたものの、欧米では3号や、それに似た35号針を使う中型機が標準。しかもハンドルを拳でたたいて綴じる卓上型やペンチのような方式が一般的で、まさに現地流通勢の壁に阻まれ、自慢の10号機も攻めあぐねていた。
国内では不動の1位でも欧米では最後発のチャレンジャー。苦い経験を持つマックスは「針が違うだけで流通ルートの拒絶反応に遭いかねない」(IR・広報室)など先行きについては極めて慎重だ。
新規格をどう浸透させるのか。困難が予想される中、デファクトスタンダード戦略に詳しい早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授は、「最大のカギは『文化』を変えられるかどうか」と指摘する。たたく、あるいはペンチのように握り締めて綴じるのは欧米人の体に染みついた習慣であり、理屈ではない。それだけに変えるのは容易ではないが、体験してもらえば製品のよさが伝わる「経験財」というバイモの特性を生かせれば、突破口になりうる。