ライバルの存在こそが自分を強くする

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プロゴルファー/青木 功

 今回から、皆さんとお会いすることになった、青木功です。今回は毎試合熱戦が期待できる、今年の日本の男子プロゴルフ界の話です。と言いますのは、昨年石川遼くんがプロに入り、しばらく女子プロに話題の主役の座を奪われていた男子プロ界にも、注目が集まるようになりました。ただ、シーズン前半はそんな遼くん効果にちょっと不満を持っていたのです。それは弱冠17歳の高校2年生がプロ入りしたからといっても、勝負の世界では互いにライバル同士なのです。そのライバルの遼くんを先輩のプロたちは温かい目で見過ぎていたように感じたのです。しかし、日本オープンで2位になるわ、マイナビABCチャンピオンシップでは優勝するわで、その活躍にあおられるように先輩プロの闘争心に火がついたように感じるのです。勝負の世界はこうでなくちゃいけません。

一人のスーパースターが登場すると、相乗効果で、また何人かのスター選手が生まれるのです。これを自分に置き換えるとわかりやすいと思いますが、かつて春の甲子園大会で優勝をしたジャンボ尾崎が1970年にプロ野球界からプロゴルフ界に華やかに転向してきました。翌年の71年、プロデビューすると、ジャンボはその年の日本プロゴルフ選手権など5勝もしてしまったのです。38年前のプロゴルフ界も、今の遼くんとおんなじで、何処へ行ってもジャンボ、ジャンボです。プロゴルフ界に耳目が集まるのはうれしいがプロゴルファーはジャンボだけではない。多くの先輩プロが打倒ジャンボののろしを上げたのですが、自分がその筆頭でした。

「ジャンボのドライバーが、飛ぶ、飛ぶと言うけど、自分だって負けないよ」。そう思って、ジャンボと一緒に回るのですが、ちょっと強めにジャンボがボールをたたくと、自分のボールの30ヤードも先に飛んでいき、今だから言えることですが「こりゃ、いくら頑張ってもドライバーはジャンボにかなわない」ということを実感したのです。

そこで、ジャンボに勝つにはどうしたらいいかと頭をひねる。子供の頃からゴルフを始めた自分は、キャディの仕事が終わるとサンドウェッジやパターを持って遊んでいたのです。そして仲間たちに「青木はアプローチやパットが上手い」、そう言われていたんです。褒められた記憶は忘れないもの。ジャンボに勝つには、自分の持ち味であるアプローチとパットの技術を磨くしかない。それに気がつくと、練習場にはウェッジとパターしか持って行かない、そんな日が数年も続き、その自信からかドライバーショットも安定してきたのです。その後、マスコミは2人を称して「AO時代」と呼ぶようになったのです。

今があるのはジャンボのおかげ。自分がそう思うように、石川遼がいたから今の自分がある、多くのプロが、今年をそんな年にしてほしいのです。

プロゴルファー/青木 功(あおき・いさお)
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エイジシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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