2015年末、北海道新幹線のダイヤや料金が発表されると、マスメディアやネットの視線はもっぱら、首都圏発着の利便性や航空機との競合に向いた。そして「新幹線に勝ち目はあるか」「飛行機のシェアは奪えない」といった懸念や評価が並んだ。確かに、北海道新幹線の営業環境そのものは厳しく、JR北海道の経営面の苦境と相まって、開業後の数字は予断を許さない。
加えて、全国的にはあまり注目されていないが、青函圏の利便性確保が地元の大きな課題として浮上しつつある。函館駅と青森駅の間は、これまで特急1本、2時間ほどで往来できた。
しかし、新幹線開業後は在来線との乗り継ぎが片道2回発生してしまう上、時間短縮効果は小さくなることが確定した。にもかかわらず、情報が公表されている範囲では、割引切符の値引き率や購入方法は限定的で、地元では交流推進の機運に水を差しかねないと懸念が広がっている。
ただ、青森市や弘前市、八戸市、長野市などの事例では、新幹線開業に伴い、鉄道利用者や観光客の増減など一般的な指標とは別の次元で、「市民力の向上」「市内の連携強化」「人材育成力の強化」といった効果が表れていた。函館市の動きは、その流れを意識し、積極的に取り込もうとした試みと位置付けられる。「人づくり」「ネットワークづくり」の成果がいつ、どのような形で表れ、地元の将来を切り開くのか。
筆者のこれまでの調査からは、函館市と、新函館北斗駅が建つ北斗市の間にも、まだまだ連携を強化する余地が大きいと感じさせられる。道南地域の連携が真の意味で強化されれば、それが最大の新幹線効果となるに違いない。江差線のJRからの経営分離も控える中、短期的な新幹線利用者の動向にとどまらず、道南や青函圏がどんな地域のデザインを描けるか、その動向に注目したい。
最大の脅威は人口減少
函館市や対岸の青森市は、深刻な危機に直面している。都市規模を考えると全国ワースト級の人口減少だ。函館市の人口は、「平成の大合併」で一体化した町村を含めると、ピークの1980年国勢調査時点で約34万5000人を数えた。しかし、2010年の調査では約6万6000人減って28万人を割り込んだ。2015年の調査結果は未公表だが、同年11月末現在の住民基本台帳人口は約26万9000人まで減っている。
北海道新幹線新函館開業対策推進機構の分析によれば、多数の観光客が訪れているものの、男性の正規雇用につながる産業基盤の強化につながらず、市民が家庭を営み子どもをつくれる環境に恵まれていないことが大きな要因という。一方の青森市は、2015年の国勢調査人口が12月末に公表され、前回調査時から4.0%減って28万8000人弱となった。こちらも、産業・雇用問題が大きな要因と考えられる。
北海道新幹線の開業で、青函圏の人口減少に歯止めがかかれば言うことはない。しかし、すでに細ってしまった若年層人口や産業・雇用問題など、地域の構造的な課題を抱える中で、開業効果を人口動向に反映させるのは容易ではない。高齢化と人口減少が進む環境下で、人のつながりや地域資源を最大限に活用できる人材やネットワークをどうつくるか。それが新函館北斗の最大の「宿題」だろう。
「私たちは開業先進地に学び先手を打ち続けてきたが、地元民は所要時間や特急料金、運行本数など、大きな落胆を味わっている。それでも、新幹線本来の効果が地元でも発揮できるように取り組んでいきたい」。新幹線函館開業対策室の永澤室長は決意を語った。
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