函館市と青森市は古くから青函連絡船で結ばれ、1989年には青函トンネル開業1周年を契機に「青函ツインシティ」提携を調印した。
しかし、青森市側は道南地域に強い親しみを覚える一方、北海道の持つ圧倒的なブランド力を脅威と受け止め、特に経済的な連携は必ずしも進展してこなかった。それでも、新函館北斗開業を目前にしてようやく、新たな企画や商品が生まれ始めた。
「開業を観光消費や販路拡大に生かせる企業を増やしたい。利益を雇用創出につなげ、次世代の担い手を定着させて、地域経済を盛り立てていきたい」。函館商工会議所の永澤大樹・新幹線函館開業対策室長は力を込める。
函館市は、桜の名所・弘前城を抱える青森県弘前市との交流も強めている。港町と城下町のコラボを目指して本格的な連携が始まったのは、東北新幹線・新青森開業直後の2011年。行政、商工会議所、住民それぞれのチャンネルで多層的な交流が進み、特設の直通列車なども活用して相互PRを図りながら、首都圏などからの誘客を目指している。
「はこゼミ」が広げた青函人脈
北海道新幹線開業後の2016年7月から9月にかけては、道南と青森県全域を舞台に、JRグループの大規模誘客施策・デスティネーションキャンペーンが展開される。
函館市は年間480万人もの観光客を集める全国有数の人気を誇りながら、近隣の同規模都市との連携に取り組める環境は乏しかった。隣接する北斗市は人口約4万8000人。次に近い伊達市は約3万5000人、室蘭市は8万9000人で、両市とも特急で2時間前後かかる。
一方、南の青森県内に目を向ければ、新幹線駅ベースでは、人口約29万人の青森市まで約1時間、約23万人の八戸市までは1時間半、約17万人の弘前市までは奥羽線乗り換えで2時間余りの時間距離になる。
道南地域は、強力な北海道ブランドに加えて、青森県をパートナーとした「青函圏」という新たなブランドの創出に成功するか。実は、函館市はその地ならしを兼ねて、まちづくりを担う人材育成にも努めてきた。最も大きな取り組みは「はこゼミ」と呼ばれる勉強会だ。
「はこゼミ」の正式名称は「新幹線開業はこだて魅力創造ゼミナール」。2012年度に開講し、2015年12月までに40回の講義やディスカッションを重ねてきた。JRや旅行・観光業界、行政、市民団体など幅広い分野から講師を招き、その多くを青森県内で東北新幹線開業に携わった人々が占めた。
はこゼミは青森県内の人々にとっても、自らの活動を振り返る機会となり、結果的に函館市を軸に、道南と青森県内をつなぐ人的ネットワークが形成された。さらに、「はこゼミ」受講者は函館市内の二次交通の点検評価を行って、観光路線バスの音声ガイドの改善をバス会社に提案するなど、地元の開業態勢充実にも努めている。
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