御厨:何回かレクチャー受けて、「どいつもこいつも、アレはするな、これはするな、あれはできない」と言う。権限はあるのに俺に何もやるなと。「これがこの国の政治のありかたか!!」と怒り狂う。戦後50年で澱がたまって、使える権限も使えない。官僚は「錆びてますから使わないでください」と言う。「そんなものは砥石で研げばいい」と怒ったわけ。
木本:それはごもっともですね。
御厨:だから、総理に権限集中するのを90年代に始めたのが橋本龍太郎。
木本:なるほど総理大臣らしい総理大臣だったということですね。
御厨:そう。自動車交渉でも、アメリカのカンターUSTR代表とやり合ったりね。剣道6段でパフォーマンスしたり、成果を挙げましたが、人事と選挙で失敗した。キングメーカーの竹下登さんにあまり好かれていなかったから、ポイされて小渕さんが総理になる。
郵政解散の時に寝ていた小泉首相の真意
木本:なるほど、僕は小泉さんの時にはワクワク見ていたんですけど。
御厨:そう、次に語るべきは小泉純一郎。ずっと泡沫候補でしたが、独特の勘で地方が顔を変えたがっている時に総裁選に出て、地方の圧倒的支持で総裁になった。彼のうまいのは、「首相公選で就任したようなものだ」と言いはじめたところ。自民党員しか投票していないのにね。でも、1年間「首相公選制を考える懇談会」を内閣に置いて、常にマスコミに報道させた。そこで「公選された総理のようなものだ」と言うだけで、彼に対する権限は集中するわけです。
木本:国民から直接選ばれた大統領みたいな顔をしたわけですね。
御厨:首相公選制は憲法改正が必要で、どだい無理。でも、それは言わずに懇談会として1年間活動させた。それでよくわかるように、彼のうまいところはメディアを使ったところ。それも惜しげもなく使った。
木本:だから僕たちにもインパクトが強かったわけですね。
御厨:もう期待するわけ。「ワンフレーズポリティックス」とは何かと言うと、テレビのいちばん下にはその人の発言って1行しか出ないでしょう、彼はこれに合うようにフレーズを決めていく。テロップが出て、一画面で収まる。
木本:なるほど!
御厨:そうなると、「次は何が来るかな?」とテレビは空けて待つ。小泉は国民に対するパフォーマンスが、だいたい1クール3カ月で飽きられると思っていた。だから3カ月経つと新しい政策を出す。そのタイミングで世論調査が行われる……。すると、彼の人気がまたポンと上がる。
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