性とは、学問的には「子孫を残すために、ほかの個体の遺伝子の一部を取り込む行為」と定義されています。子供を残すことが性の目的ですから、子供を産むことのできるメスの存在意義は明らかです。
わからないのはオスの存在です。カタツムリやミミズのように、ひとつの個体にオスとメスが混在していれば生殖はいたって簡単です。ところが、オスとメスが分離していると、生殖のためにわざわざパートナーを見つける必要が出てきます。なぜこのような非効率なメカニズムになっているのでしょう。オスは何のために存在しているのでしょう。オスの役割とはいったい何なのでしょうか。
休みなく走り続ける「赤の女王」とは?
この疑問に答えているのが「赤の女王」と呼ばれている仮説です。赤の女王とは「不思議な国のアリス」の続編「鏡の国のアリス」に登場する女王のことです。彼女が支配する国では、誰もが全速力で走り続けています。
全力で走っていないと、同じ場所にとどまることができず、たちまち置いていかれてしまうからです。「赤の女王」仮説は、このアリスの物語のように、「生き残るために、生物は絶えず進化し続けなければならない」と考えます。
たとえば、捕食者であるキツネはより早く走ることで、より多くの獲物を獲得できます。一方で獲物であるウサギはより敏感な耳を持つことでキツネから逃れ、生き残りやすくなります。このように、キツネとウサギは互いに進化の競争を続けることで、生存競争を生き抜き共存していくことができる、と考えるのです。
このような生き残るための、果てしない軍拡競争のような戦いが生物の進化を促している、と考えられています。そして、この仮説が有性動物にはなぜオスとメスがいるのか、という謎をうまく説明してくれるのです。
遺伝子の研究が進むにつれ、ウサギやキツネの進化にも遺伝子レベルの説明が加えられるようになってきています。それは「生存環境は変動するので、子孫の遺伝子に多様性を持たせる方が、さまざまな環境を生き延びさせることに有利である」というものです。
いろいろな遺伝子を持ったウサギがいれば、それぞれの耳の機能もさまざまですから、キツネに食い尽くされて絶滅することなく、一定数のウサギは生き残ることができる、と考えるのです。
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