王子製紙を襲った中国リスクの正体

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 05年には国家環境保護総局から環境アセスメント認可を、06年には国務院から事業認可を取得した。ただ、中国側との折衝の過程で計画は変更を余儀なくされた。1号抄紙機は11年に稼働を開始したが、当初計画の06年より大幅に遅れただけでなく、年60万トンとされた生産規模は40万トンに縮小された。

今後事業拡大のカギとなるのはクラフトパルプの内製化だ。現在は日本から輸入しているが、現地生産すれば大きくコストが減る。だが、この工程を導入すると、より大がかりな排水処理が必要。パイプライン建設が白紙撤回されると、計画の大前提が崩れる。

各地で「白紙撤回」続く

中国では最近、環境問題に端を発する抗議行動で地元当局が方針を翻す例が続いている。昨年は、大連で化学品工場からの有害物質の流出を恐れた住民が市政府を包囲、当局はその工場の生産停止と工場移転を約束した。今年7月初めには、四川省什ホウ市で、金属精錬工場の建設計画への抗議行動が広がり、市政府は計画撤回に追い込まれた。

南通の事件を受け、共産党機関紙「人民日報」は、7月30日付で市政府の判断を評価する論評記事を掲載。国民一般の権利意識、環境意識が高まる現在、「政府は人々が権利を訴えるルートを用意し、オープンで透明な政策決定メカニズムを築くべきだ」とした。王子製紙にしてみれば、国から地方まで各段階の政府と延々と折衝した揚げ句にはしごを外された格好だ。

選挙の洗礼を受けていない政府は、民意の暴走にさらされたときに意外ともろい。そうなると法的な権利や行政上の約束事は吹っ飛んでしまう。そのリスクが南通で露呈したことで、中国のビジネス環境は大きな転換点を迎えた可能性がある。

王子製紙の業績予想、会社概要はこちら

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(西村豪太、石井洋平 =週刊東洋経済2012年8月11-18日合併特大号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。 

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