「街の電器店さん」が年商10億円を稼ぐ理由 日本人の"血"が御用聞き営業を求めている

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こうした抜本的な経営改革に最初は不安もあったと言う。しかし、1年1年と着実に粗利率は向上し、8年目で当初の目標であった35%に達した。売り上げの内訳を見れば約65%が訪問販売。顧客層は、50代後半以降のシニア層が中心だ。逆風の中、舵を切った「御用聞き営業」への特化が、『でんかのヤマグチ』を競合間の熾烈な価格競争にも負けない超優良店へと押し上げたのだ。

量販店のチラシは20年間一度も見たことない

『でんかのヤマグチ』のオリジナリティは、こうした“わが子以上”の親密な関係性づくりだけに限らない。ほかにも象徴的なのが、店頭での週末イベントだ。店先にテントを出し、季節に応じて、ジャガイモやサンマ、鹿肉などさまざまな食材を使った料理を振る舞い、来店客にお土産として持たせる。普通の電器屋では見られないこんな特殊な光景が、もうかれこれ37年も続いていると言う。

今や近隣の住民にとって、ヤマグチのイベントは街の名物である。幼い頃から両親に連れられ、よくイベントに遊びに来ていた若い世代が、大人になってヤマグチに家電を買いに来るケースも珍しくない。異色の週末イベントが、世代を超えた顧客との関係作りに一役も二役も買っているのだ。昨今、大手量販店が顧客を囲い込むために軒並み導入しているポイントカードも、『でんかのヤマグチ』では扱っていない。

「うちは胃袋でお客さまの心を掴む。店先で鹿肉を食べたら一生忘れないでしょう(笑)」

この潔さが、山口氏の最大の武器だ。実際、山口氏は一度も近隣の大型量販店を覗きに行ったことがないそうだ。それどころか、他社の折込チラシの価格も一切チェックしないという。

「商売っていうのは、他人との戦いじゃなく、自分との戦い。それくらいでないと、こんな小さな電器屋はやってられませんよ」

ルートセールスに徹しているものの、口コミで評判を聞いた新規顧客の来店も後を絶たない。

お客さまのお困りごとに精一杯お応えするだけ。と話す

「営業マンが話す100回のセールストークより、たった1回、お客さまから『ヤマグチっていいよ』とお知り合いに言っていただける方がよっぽど効果的。そのためにも私たちはとにかくお客さまのお困りごとに精いっぱいお応えするだけ。今いるお客さまを大切にすることが、いちばんの顧客獲得なんです」

この信念の土壌となっているのは、山口氏自身の幼少期の経験だ。町田に生まれ、実家が農家だった山口氏は、味噌や醤油が切れたら気軽に隣近所と貸し借りし合う環境で生まれ育った。そうした頼り頼られる昔ながらのコミュニケーションを、平成の世に『でんかのヤマグチ』で実践しているのだ。

「昔はそうやってちょっとした困りごとは隣近所で助け合って生きてきたんです。表面上は欧米化されたところがあるとしても、本質的には私たち日本人は大らかな農耕民族。ちょっとくらいほかより高くても、そういう恩や縁があれば、ちゃんとうちで買ってくれるんです。若い人は御用聞きなんて効率が悪いと思う人もいるかもしれませんが、やっぱり直接お邪魔してご要望を伺う御用聞き営業は、商売の原点なんですよ」

競争の激化する家電業界で、着実に成長し続ける『でんかのヤマグチ』。その経営の本質には、古きよき日本の原風景があった。

(取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴)

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『20's type』編集部

『20's type』は、キャリアデザインセンターが運営するWebマガジン。2018年4月より『営業type』からサイト名をリニューアル。新時代を生きる20代若手ビジネスパーソンの「働く力」を育むために役立つ情報を発信している。

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