「街の電器店さん」が年商10億円を稼ぐ理由 日本人の"血"が御用聞き営業を求めている
競合各社が「1円でも安く」と躍起になる中、時代に逆行するような高価格路線。たとえば、量販店なら15万円ほどのテレビを、ヤマグチは30万円で売る。そんな大胆無謀な計画を成功させるために行ったのが、顧客リストの精査だ。
5年以上購入履歴のない顧客はリストから外し、他店のチラシを持って値引きを要求してくる相手にも「じゃあ、よそで買ってください」と応じた。結果、顧客リストはそれまでの3分の1にまで絞り込まれた。
「お得意さまが3分の1になった分、残ったお客さまには3倍のサービスを提供しようというのが、うちの考え。お客さまには失礼になってしまう言い方になりますが、お客さまがヤマグチを選ぶのではなく、ヤマグチがお客さまを選ぶという方針に切り替えたのです」
転機は徹底した付加価値営業への切り替え
それが、現在まで続く「御用聞き営業」誕生の瞬間だった。3倍のサービスで、価格以上の価値を感じてもらう。いわゆる付加価値営業への転換である。しかも、この徹底ぶりが半端ではない。
テレビの配線や電球の取り換えなんて朝飯前。旅行に出かける顧客に代わって庭の植木に水をやったり、通院する顧客を車で病院まで送迎することは日常茶飯事だ。「街の電器屋」の枠を軽く飛び越え、顧客が困っていることがあれば何でも駆けつける。
「中には買い物に出かけたお客さまが、出先でエアコンを切り忘れたことに気づいて、うちの営業マンに電話してくれたこともあって。『悪いけど家まで行ってエアコンを切ってもらえないか。合鍵の隠し場所はどこそこだから』なんて頼まれたこともありました」
まさに「遠くの親戚より、近くのヤマグチ」という同社の標語を象徴するようなエピソードだが、「今では『近くの子どもより、近くのヤマグチ』ですよ」と山口氏は笑う。実の子どもにもおいそれと頼めないことも、ヤマグチになら気兼ねなく頼める。そんな盤石の信頼関係が築かれているのだ。
「粗利を追求していこうと決断して以来、うちでは売り上げ計画というのをやめました。売り上げが目標にあると、どうしても利益そっちのけで、安く売って数字を埋めようとする。
でも、それじゃいけない。代わって徹底しているのが、利益計画です。外回りから帰ってきたら、営業マンはみんな『今日上げた利益はいくらでした』って会話をしている。そのためにも、製品一つひとつの卸値まで全員にきちんと把握させています」