【産業天気図・鉄道/バス】JRは好調持続。私鉄大手も鉄道堅調で08年度は改善へ

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2007年度後半から08年度にかけての鉄道業界は、収益的には「曇り」から、徐々に薄日が射して「晴れ」も展望できそうだ。ただ、業界を取り巻く外部環境や景気の動向については必ずしも楽観視できるとか、好転していくと見ているわけではない。
 まず、07年9月中間期の実績を見ると、私鉄大手13社(非上場の西武ホールディングスを除き、阪急阪神ホールディングス<9042>は旧阪神電鉄を前期初から経営統合したとして比較)の合計で、売上高3兆4466億円(前年同期比0.7%減)、営業利益2861億円(同1.6%増)、経常利益2420億円(同1.8%増)、中間利益1303億円(同0.8%減)だった。
 今07年度の電鉄会社は、収益柱の鉄道事業は輸送人員の面では好天や沿線人口の増加、景気回復から堅調な動きが続くものの、鉄道・バス共通ICカード「パスモ」の導入関連(関東圏)や鉄道の安全投資等の拡大、制度改正に伴う要因などから減価償却費が足を引くこと、加えて、収益のもう1つの柱である不動産事業で前期に大型の物件販売があったことによる反動などで、基調としては営業減益を免れない。輸送人員は、関東各社はパスモ導入に伴う計上方法の変更によるカサ上げ分を除いた実質ベースでも、全社で増加を記録した。名古屋鉄道<9048>も空港線を中心に増加。関西圏の近畿日本鉄道<9041>、京阪電鉄<9048>はマイナスが続いているが、南海電気鉄道<9044>はこの上期に12年ぶりとなる輸送人員増加となった。
 こうした、主力の鉄道事業の堅調と、上期予定した修繕費が下期へ先ずれするという、いつもながらの要因から、上期営業利益は期初の見通しを上回って着地した。売上高は7社が上期予想を下回ったものの、営業利益は13社合計で、期初見通しから344億円も上振れた結果、期初の10.6%減益予想から、実績は1.6%増益へと収益の方向はまったく逆向きになってしまった。中でも、阪急阪神ホールディングス、東京急行電鉄<9005>、東武鉄道<9001>の振れが大きく、3社で154億円の増額となっている。こうした中で、ただ1社、期中に減額した西日本鉄道<9031>は上期実績でも唯一、期初見通しを下回った。
 私鉄大手ほど多角化が進んでいないJR上場3社(東日本旅客鉄道<9020>、西日本旅客鉄道<9021>、東海旅客鉄道<9022>)の07年度上期は、鉄道事業の好調さがよりクリアに出る決算となった。3社合計の売上高は2兆7325億円(同2.3%増)、営業利益5949億円(同10.2%増)、経常利益4509億円(同13.4%増)、中間利益2544億円(同7.4%増)だった。3社とも新幹線を中心に好調で、7月にはJR東海、JR西日本は新型新幹線車両のN700系を投入している。JR東海の上期の新幹線輸送人・キロは前年同期比で4.8%増にも達しており、3社合計で営業利益が期初見通しを498億円も上回った上振れ着地の牽引役となった。
 ただ、電鉄会社の上期業績は保守的な傾向があり、鉄道の修繕費などの経費が下期中心に計上されるため、もともと上振れしやすいという特徴がある。そのため、上期の上振れ分が通期業績の増額に直結するわけではない。各社の通期業績見通しは、慎重な会社側の姿勢もあってそれほど大きくは変化していない。
 そうした中で、通期見通しを減額したのは西鉄と、下期に原価高の不動産を売るなどが響くとみられる近鉄の2社で、近鉄の営業利益減額幅は60億円になる。他は京王電鉄<9008>と相模鉄道<9003>が微調整のような幅で会社期初予想を下げている。その一方で、期初予想を増額したのは東急で、含みのある沿線土地の販売抑制は変わらないが、その減少幅が期初見通しより縮小することで、営業利益は「一転増益」予想に変わってしまった。また、阪急阪神、小田急電鉄<9007>も減益幅縮小が目立つ。
 『会社四季報』08年1集・新春号の私鉄大手13社の通期業績予想は、売上高7兆1175億円(前期比1.1%減)、営業利益5147億円(同9.7%減)、経常利益4170億円(同13.0%減)、純益2320億円(同14.2%減)である。期初時点より、会社予想との幅が縮まっているが、理由としては会社予想の営業利益合計額が期初より24億円増額されたのに対し、「四季報」予想のほうは28億円減額したためだ。これは「四季報」の期初予想が甘かったということでは必ずしもなく、期初時点で会社の増額を見込んでいた「四季報」予想には今回の会社増額分は一部織り込み済みなのに対し、今回減額の分だけがカウントされた結果である。
 一方、JR3社は07年度後半も好調だ。JR東日本は収益源の首都圏輸送中心に好調を見込む。「四季報」の3社合計通期予想は、売上高5兆5150億円(同1.9%増)、営業利益9812億円(同1.6%増)、経常利益6820億円(同6.4%増)、純益3888億円(同5.1%増)である。営業利益は期初予想より、452億円増額しているが、その中心はやはりJR東海である。JR東日本は旅客収入が順調なことから、悪評高い首都圏の輸送障害対策を中心に、下期に計画外の修繕費120億円を積み増す”余裕”を見せている。
 減益と増益の違いはあるが、大手私鉄、JRとも期末にかけて、何がしかの上振れ余地はありそうだ。
 来2009年3月期の四季報見通しは、私鉄大手で売上高7兆0830億円(今期予想比0.5%減)、営業利益5305億円(同3.1%増)、経常利益4298億円(同3.1%増)、純益2420億円(同4.3%増)。JR3社で売上高5兆5950億円(同1.5%増)、営業利益1兆0010億円(同2.0%増)、経常利益7140億円(同4.7%増)、純益4110億円(同5.7%増)である。現時点では、私鉄大手は業績回復に転じ、JRは増益が続くという見方だ。収益の基盤である鉄道事業の輸送人員は、関東私鉄でパスモ導入に伴う今期カサ上げ分が来期は見かけ上マイナス効果に働くものの、基調としては強そうだ。
 「鉄道業は景気に対して、遅行性がある」という指摘はよく聞かれる。今期業績を圧迫した減価償却も、高水準の設備投資は続くが、パスモ関連や制度改正絡みは来期減るわけではないものの負荷要因としては今期のみの一過性である。不動産事業のほうは、鉄道事業に比べると環境悪化も見込まれ、不透明感が強いが、今期の落ち込みから多少でも回復すれば業績にはプラスになる。流通やレジャー、ホテルなどは個人消費関連で、来年度に楽観できる要素もないが、利益への比重はもともと高くない。こうしたことから、私鉄大手は来期は利益改善に向かうと判断する。
 JR3社で来期業績を牽引するのは、JR東日本だ。07年10月に相次いで開業した東京駅の高層ビルや大型地下商業施設、立川エキュート(駅ナカ商業施設)が来期は開業費の負担も消え、期初からフルに貢献する。08年6月の東京メトロ副都心線開業を織り込んでも、鉄道事業は1%台の増収を見込んでおり、これが打撃になることはなさそうだ。
 なお、先述の私鉄大手の売上高には、小田急電鉄による、子会社・小田急建設の大和ハウス工業への売却の影響を織り込んでいる。『会社四季報』新春号の誌上では来期売上高予想でこの変化を取り込んでいないが、この売却による小田急電鉄の連結減収額は570億円、利益面はほとんど影響ない。この分を加味して考えると、13社計の売上高は「プラス横ばい」である。
【中川 和彦記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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