「楽園企業の接待」は、驚くほどスゴかった 一流の人は「生きたお金」の使い方をします!

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じつは、他社との差別化もふくめ、今回の逆接待には3つの狙いが隠されていた気がする。それぞれを山田語録とともに紹介したい。

山田式「逆接待」3つの本当の狙い

① 「他社とチョット違うことをやるのが、差別化の基本や」

「多くの人たちは、差別化を難しく考えすぎている」と山田氏はよく話していた。「製品の長さや幅を1センチ伸ばしたり、色を黒から赤に変えたりと、他社とチョット違うことをするのが差別化の基本。人マネに『小さなプラスアルファ』を加えることから始めればエエわけや」

今回も、「接待する側とされる側」を反対にしてみただけ。それだけだが、見えてくる世界はまるで違うはずだ。そこで新たな気づきがあれば、何か創意工夫のきっかけになるかもしれない。山田氏のことだから、自分が「逆接待」をすれば、社員たちにもすぐに伝わることは意識していたに違いない。

② 「商売は、相手に『悪いな、申し訳ないな』と思わせたら勝ちや」

自分が接待すべき人から「逆接待」されれば、普通の人なら「悪いな、申し訳ないな」と思うはずだ。山田氏の狙いは、この「心の負い目」を相手に感じさせることにあった。

「担当部長は、メーカーへの接待費枠を持っとる。当然、未来工業用の予算は残っとるわな。しかも創業者に接待されとるんやし、心の負い目があれば、『原材料の価格も、少し安くせんといかんな』と、考えてもおかしくないわけや」

少人数の接待と違い、一仕入先とはいえ、年間の原材料費は金額が大きい。一見「反ドケチ」に見える逆接待は、なんと自社の経費圧縮も目指す「ドケチ営業」だったわけだ。

③ 「『ドケチ』と『反ドケチ』はTPOに応じて使い分けることが大切や」

「『社員をドケチにする』のは社長の仕事。ただし、節約一辺倒では創意工夫のアイデアはなかなか生まれない。だから社員たちをやる気にさせる『反ドケチ』も必要。『ドケチ』と『反ドケチ』を、TPOに応じて使い分けることが大切や」

未来工業の場合、本連載の1回目で紹介したように、1.5億円を全額会社負担で、海外への豪華社員旅行を行っている。そうやって社員に還元する「反ドケチ」をやる一方で、普段の職場では、蛍光灯やコピー機の利用を極端に制限するなど「ドケチ」を徹底している。

今回の「逆接待」は、そうした山田式「反ドケチとドケチ」が表裏一体の、ハイレベルな合わせ技だったわけだ。

さすが「日本一のドケチ社長」!

そう考えると、仕入先の部長が女将に食い下がり、山田氏との飲食代を自分が払おうとしていたのも、その意図を感じたうえでの必死の抵抗だったのかもしれない。仕入先の部長は、きっと「タダより高いものはない」と、思い知らされたはずだ。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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