それでも、大会への投資をやめるつもりはない。大会に向けて参加メンバーや幹部、店舗が一致団結していくことは、技術の研鑽だけでなく、組織のカルチャーを作る機会になっているからだ。
「参加メンバーが命がけで取り組んでいる姿を見ているスタッフたちが、『こんなにもコーヒーをおいしくしたいんだ』と思ってくれる。すると、どんなに忙しい店舗でも、『自分たちもこの忙しい中でどれだけおいしくできるか』に挑戦してくれる人が増えるんです。それを見て、真似てくれる後輩スタッフも出てくる。だからすごく大切で、真摯に真摯にやり続けていきたいと思っています」
一方で「スモール」の店舗で使う器具やマシンにも投資を惜しまない。たとえば2025年6月にオープンした大阪・淀屋橋駅店には、最新鋭の抽出マシンを導入した。
「1投目が93度で、2投目は91度、3投目は88度……」と、1杯の抽出の中で温度を細かく変えられる。秒単位でも設定できる。WBC出場のために培った世界最高峰の技術を、日常の1杯に落とし込むための設備だ。
WBCで使った特別なミルクも、一般向けにアレンジして展開している。
「大会で使うミルクをそのまま提供すると、本当に1杯4000〜5000円になっちゃう。だから、たくさんのお客様に届けられる価格でやれる形にしてみようと」
その延長で生まれたのが、「濃縮カスタムミルクラテ」というカフェラテだ。ふわふわの泡と、特製ミルクのリッチでまろやかな味わいが魅力で、スイーツを食べたような満足感が得られる。その風味が忘れられず、筆者も何度もリピートしている。
創業メンバー全員が反対したビッグ・ビジネス
もうひとつ、違う意味で「ビッグ」の象徴的なビジネスが、大企業とのコラボレーションだ。相手は、日本コカ・コーラ。
猿田彦珈琲は2012年に同社から依頼され、缶コーヒー「ジョージア ヨーロピアン」の共同開発を手がけた。スペシャルティコーヒー専門店が、大量生産の缶コーヒーに関わる——。当時の業界では異例の事態だった。
きっかけは、店を訪れた「ジョージア ヨーロピアン」開発担当者がおいしさに感動し、「こういうコーヒーをつくりたい」と感じたことだった。しかし、「創業メンバーは全員反対でした」と、大塚さんは明かす。
「『絶対やっちゃいけない』と怒ってくださった知人もいました。おっしゃる気持ちもよく分かるんです。大企業と関わることで起こる変化を心配してくださったんだと思います。でも僕としては、そんなつもりじゃなかった」
迷った結果、大塚さんは決断した。「スモール」だけでは届かない人たちに、猿田彦珈琲の名前とスペシャルティコーヒーのおいしさを届けるためだ。豆の選定から焙煎、ブレンドまで真剣に向き合い、缶コーヒーの限界に挑戦した。
すると、新生「ジョージア ヨーロピアン」は大ヒットを記録する。従来の缶コーヒーにはなかった「専門店の味わい」がリピーターを呼んだのだ。2019年に「香る」シリーズに名前が変わったが、風味や抽出方法を変え、共同開発は今も続けられている。


















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