「決算」と「天体の運行」に関係がある!?当たり前すぎる前提を疑ってみたら、誰も気づかなかった宇宙ビジネスの意外な課題までたどりついた

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 というのも、電波は光速(秒速約30万キロメートル)で伝わりますが、これだけ離れていると通信にもかなりの時間がかかります

平均では片道約12.5分、もっとも離れているときは片道約24分。往復の通信には、最大で48分もかかるわけです。

移動時間はロケットの発達で短縮される可能性がありますが(核熱推進エンジンが開発されれば45日程度で火星に行けるようになるそうです)、光速は「宇宙の制限速度」なので(アインシュタインの相対性理論が間違っていないかぎり)それより速く通信を行なうことはできません。

そのため火星探査機はリアルタイムでの操作が難しく、事前に送信したプログラムに基づいて探査機が自律的に動くように設計されています。

「火星支店」は独立性の高い組織になる

機械はそれでいいでしょうが、地球本社と火星支社のメンバーがオンライン会議を開いても、話がなかなか進みません。そういう側面もあるので、距離の離れた天体の事業体は独立性が高くなると思われます。

逆に、地球の軌道上を周回する宇宙ステーションに分室のような事業体ができた場合は、通信にそれほど時間がかかりませんし、時間単位も合わせやすいので、地球の本部と同じ会計ルールでやれそうです。

仮に宇宙ステーションが独立した企業となったとしても、地球を周回している以上、「地球企業」としてのアイデンティティを持つでしょう。決算は地球のカレンダーで行なわれるでしょうし、株式を上場するときは地球のどこかの市場を選ぶと思います。

微妙なのは、月でしょうか。地球を周回しているとはいえ、月で生活したときの時間間隔は地球とずいぶん違います。

まず、「1日」をどう定義すればよいのかがよくわかりません。

月は常に同じ面を地球に向けていることからわかるとおり、自転を1回するあいだに地球のまわりを1回公転します。

そのため、もし昼と夜のサイクルが一巡する時間を「1日」とするならば、それは地球の約29.5日に相当するのです(月の「昼」と「夜」は、それぞれ15日弱も続くのです)。

これだけ「1日」の感覚が違うと、「月面支店」は地球時間に合わせるしかないでしょう。月面時間での「1日」の売り上げは、地球時間の2週間分になってしまいます。

決算も、地球のカレンダーに合わせれば、おそらく問題ありません。月は地球といっしょに太陽のまわりを周回しているので、太陽を1周するあいだに決算を1度やれば、地球と同じ年次決算になります。

ややこしいのは、「1か月」をどう定義するかです。月が地球のまわりを公転する周期は約27日なので、地球の1年(12か月)のあいだに、月は13 回ほど地球を回ります。

もともと「1か月」は文字どおり「月」の動きを基準にしているので、月の1年を12か月に区切るのは、どうも納得がいきません。月面支店の月次決算は、もしかしたら年に13回になる可能性もあるのではないでしょうか。

このように、地球と近い火星や月でさえ、そこでの会計ルールを考え始めると一筋縄ではいきません。遠く離れた系外惑星にまで人類が活動範囲を広げたら、それぞれの星で独自のやり方を決めてもらうしかなさそうです。

しかしそうなったとしても、それが「私たち人類の会計」である以上、何らかの共通ルールは必要になるでしょう。

系外惑星の会社と地球の会社のパフォーマンスを同じ基準で測定し、公正に比較するには、会計の統一基準が欠かせません。それをどのように整備していくのか。これは、人類の未来に課された大きな宿題だと私は考えています。

山口 不二夫 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 専任教授

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やまぐち ふじお / Fujio Yamaguchi

1957年、千葉県生まれ。東京大学経済学部、東京大学大学院博士課程で学ぶ。経済学博士(東京大学)。神奈川大学専任講師・助教授、青山学院大学助教授・教授を経て、2004年より現職。会計の面白さをわかりやすく伝える講義に定評がある。会計理論学会 元会長・現常任理事。著書に『火星の決算日はいつになる? 地球人のための会計入門』(東洋経済新報社)、『日本郵船会計史』(2001年日本会計史学会賞受賞、白桃書房)、『日本の新会計基準』(共編著、東京教育情報センター)など多数。

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