パリ同時テロが「米大統領選挙」に落とす影 ヒラリー氏に追い風、トランプ氏に逆風?

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そのクリントン前国務長官にも弱みはある。オバマ政権の外交政策への関与である。国務長官としてオバマ政権の外交政策に携わってきたクリントン前国務長官は、オバマ外交に対する批判を受けやすい。

「イスラム国」の台頭に関しては、オバマ政権が断固とした対応を取ってこなかったことに理由を求める声がある。それでなくても、キューバ、イランとの関係改善など、融和を重視するオバマ政権の外交姿勢に対しては、これを「弱腰」とする批判が絶えない。

クリントン前国務長官は、オバマ外交との違いを打ち出す必要に迫られかねず、テロ後の「イスラム国」対策についても、オバマ政権よりも強硬な対応を主張する可能性があるだろう。

戦時下で行われる選挙

実は米国にとって2016年の大統領選挙は、4回続けて行われる「戦時下の選挙」である。2001年の米国中枢同時多発テロを受け、米国のジョージ・W・ブッシュ大統領は、「テロとの世界的な戦い」に踏み切り、2004年の大統領選挙で再選を果たした。2008年、2012年の大統領選挙では、米軍のイラク、アフガニスタンでの戦闘終了を目指すオバマ大統領が勝利、米軍をイラクから撤退させたものの、そこに「イスラム国」という新たな脅威が台頭している。

2001年の米国中枢同時多発テロから、すでに14年の歳月が経過した。2016年の大統領選挙で初めて投票権を得る18歳の有権者にとって、米国中枢同時多発テロの記憶は鮮明ではないかもしれない。

しかし、そうした若い有権者たちは、人生のほとんどを自国が戦争を戦っている中で育ってきた「戦争しか知らない子供たち」でもある。米国の世論調査機関のピュー・リサーチセンターが米国中枢同時多発テロ直後の2001年10月に実施した世論調査では、「米国でのテロ再発を懸念する」との回答が73%を占めていた。同センターが2015年1月に行った調査でも、依然として64%がテロ再発の懸念を表明している。

すでに述べたように、米国の大統領選挙は選挙期間中に何度も流れが変わる。「イスラム国」の行方次第では、テロ対策や外交問題は、いずれ大統領選挙の後景に退くかもしれない。難民・移民排斥論へと、議論の中心が変質していく可能性もある。それでも、戦時下にある米国において、有権者が「米軍の最高司令官」を選ぶことの重さは変わらない。米国の大統領選挙は、2016年11月8日に投票日を迎える。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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