トランプが執拗に欲しがるグリーンランド、その「暴言外交」のウラにある冷徹な安保上の計算

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グリーンランドの重要性を語るうえで欠かせないのが、「GIUKギャップ」と呼ばれる海域だ。これはグリーンランド(G)、アイスランド(I)、イギリス(UK)を結ぶ狭隘な海域を指す。

ロシア海軍の潜水艦が北大西洋へ進出し、アメリカ本土やヨーロッパの通信網、海上交通路を脅かそうとする場合、必ずこの海域を通過しなければならない。冷戦期から現在に至るまで、GIUKギャップはアメリカ本土防衛とNATO防衛の要衝であり続けてきた。

この監視能力を維持・強化するためには、グリーンランドの協力、あるいは実質的な関与が不可欠となる。トランプ氏が提唱し、2029年1月までの運用開始を目指すミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」を最大限に機能させるためにも、この地理的条件は譲れない。トランプ氏がグリーンランドを国家安全保障上の「不可欠な土地」と強調する理由は、ここに集約される。

「資源の島」が握る覇権のカギ

トランプ氏の執着は、軍事戦略だけでは説明しきれない。グリーンランドは、21世紀の産業覇権を左右する戦略鉱物の宝庫でもある。鉄鉱石、グラファイト、タングステン、金、ウラン、銅、亜鉛、さらには石油やガスの存在も指摘されている。

なかでもアメリカが最も重視するのがレアアース(希土類)だ。アメリカ地質調査所(USGS)の推計によれば、グリーンランドのレアアース埋蔵量は約150万トンとされ、世界第8位の規模を誇る。クヴァネフィエルドなど、世界最大級とされる未開発鉱床を有しながら、環境問題や政治判断を背景に、本格的な商業採掘はいまだ行われていない。

レアアースの供給網はその約9割を中国が掌握しており、これはアメリカのハイテク産業と国防における最大のアキレス腱となっている。電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、最新鋭のステルス戦闘機やミサイル誘導システムに至るまで、現代文明を支える基幹資源を中国に依存し続けることは、アメリカにとって戦略的に容認しがたい。

皮肉なのは、トランプ大統領が気候変動を「史上最大の詐欺」と否定してきたにもかかわらず、その帰結として生じる「氷のない北極」という地政学的変化を、誰よりも現実的に利用しようとしている点である。温暖化による氷床後退は、資源開発の経済性を高めると同時に、北極航路の商業価値を押し上げている。

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