市場を支える「信頼」を考えよう--野口悠紀雄×ちきりん白熱対論「数の突破力を教えよう」番外編・その2
ちきりん 今の不況が需要側の問題なのか、供給側の問題なのか、経済学者同士でも揉めるくらいですから、すごく難しいことを分離したのだと思います。
野口 経済学はよく社会科学の女王と呼ばれますが、優れている要素の一つが需要供給曲線という分析道具を持っていることです。これに匹敵するような分析のツールをほかの社会科学は持っていません。
ちきりん 私はよく旅行をするのですが、東南アジアを旅行していると、現地の人が料金を10倍ぐらい平気でふっかけて言ってくる。そのときまず聞かれるのが、チャイニーズなのか? ジャパニーズなのか? ということ。その答えで、ふっかける倍率を変えてくるんです。日本人だと聞くと10倍から、中国人だと3倍からスタート。
彼らは需要曲線と供給曲線のグラフは知らないけど、日本人ならこの価格、中国人ならこの価格と、それぞれがどの価格まで需要を維持できるかという水準が違うことがわかっています。
野口 東南アジアだけではなくて、アラブ圏でもそうですね。タクシーに乗るのでさえ、価格を交渉する。でもそういうことに市場メカニズムを働かせるのが本当にいいことなのかは疑問であって、定価販売のほうが効率的なのです。キリスト教文明が普及している国ではタクシーは価格交渉をしない。定価販売です。
ちきりん それは面白いですね。
野口 その代わりチップを出す。定価販売が成立するかどうかには、相手をどの程度信頼するかということも関係する。マーケットメカニズムというのは、相手を信頼しないで機能しているわけでは、まったくありません。相手を信頼するから定価販売が成り立つわけです。マーケットは無秩序の弱肉強食だと思っている人が多いのですが、まったく違います。