《ミドルのための実践的戦略思考》「規模の経済」で読み解く食品容器メーカーの資材調達担当課長・伊藤の悩み
また、規模の経済を効かせるためには、先に述べた通り、共通部分を大きくすることが前提です。当たり前ですが、個別カスタマイズの製品を積み重ねていってもコストは安くなりません。個別案件の積み重ねの場合は、むしろ生産プロセスのコストばかりがかかって、やがては規模の不経済を発生させる原因になります。このパターンは、グローバル展開初期で闇雲に現地ニーズに合わせてカスタマイズしてしまう場合や、M&Aをしたものの両社の折り合いがつかずに統合しきれない場合などによく見られるパターンです。
加えて、マネジメント上の非効率化といったことも考えられるでしょう。一般的に、企業規模が大きくなれば、それに従って企業内の階層も増え、コミュニケーションルートも複雑化します。例えばオペレーションに変更を加えようとしても、小規模の企業であれば柔軟に対応できるものが、大規模であるがゆえに、社内説明会、マニュアル化、事後フォローなどのコミュニケーションコストが発生することになります。手続きの増加に伴い、いわゆる組織の官僚化という事態にもなりやすくなるでしょう。
また、こういった組織内の複雑性を効率的にコントロールするマネジャーの能力にも限界が生じてきます。ある特定の工場だけを見ていたマネジャーも、規模拡大に伴い複数の工場を管轄することも出てきます。それに伴い以前と比較して現場に目が行き届かなくなり、トラブルが生じやすくなり、結果的に歩留まりが低下する、といったことも考えられます。こういったマネジメント上の非効率化は、規模拡大の場面でよくみられることです。
以上の事例が、一般的に「規模の不経済」の要因となる代表例になります。
これらのことから伺い知れる通り、規模拡大といってもどこかで物理的な限界が来るわけです。結果的に見れば、「規模の経済は効かない場合の方が多い」と考えていた方が健全なぐらいでしょう。いずれにせよ、自身のビジネスにおいて規模の経済を語るのであれば、「規模の経済がどれくらい効くのか」と同時に、「どこの範囲まで規模が効くのか」ということを正しく理解しておく必要があることを留めておきましょう。
*1 なお、これらの数値は標準的なものであり、業界や競争環境によっては必ずしも当てはまらない場合がある。