《ミドルのための実践的戦略思考》「規模の経済」で読み解く食品容器メーカーの資材調達担当課長・伊藤の悩み

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■「規模の不経済」という落とし穴も

さて、ここまで理解をすると、概して「大きいことはいいことだ」ということになりそうです。しかし、世の中それほど簡単ではありません。身の回りを見渡しても、大企業よりも中小企業の方がコスト優位性のある業界はたくさんあります。

これはどういうことなのでしょうか?

さらに規模の経済の本質に迫っていきたいと思います。まず、大原則として、規模の経済には、その効用の物理的範囲があり、それを超えると「規模の不経済」が生じるということがあげられます。

例えば、とあるメーカーが1つの工場で生産をしていたとします。このメーカーがコストを安くするためには、生産量を増やすことによって、1個あたりにかかる固定費(=工場の設備費用)を安くする、というのが大原則です。つまり、工場稼働率を高める、ということです。しかし、当然ながら工場にはキャパシティがあります。もし、生産量拡大の結果、キャパシティを超えてしまった場合、新たな生産設備を設置する必要があります。そうすると、生産設備のみならず、生産のためのスタッフや、新たな受注のためのプロモーション費用など新たに大きく固定費が発生することにつながり、結果的に1個あたりのコストは逆に増えてしまうことになります。この手のことは、飛行機やホテルなど稼働率が重要なファクターになるビジネスにおいても共通の事象です。

更に、付加価値に対して物流費のインパクトが大きい業界なども、その規模の物理的範囲があります。例えば今回のLP社のような容器メーカーなどはその典型でしょう。容器というのはかさばるために付加価値以上に物流費がかさみます。したがって、一定の距離を離れてしまうと、物流費の方が規模のメリット以上にかかってしまうため、納品先の一定距離内(一定物流コスト内)であることが大前提になります。

その延長で更に深めると、規模の経済といっても、その規模が「平準化」されていることが前提であることに気付きます。例えば、同じ業界で、年間1,200個生産している会社(A社)と、3,600個生産している会社(B社)があるとしましょう。生産量は3倍になるので、B社の方が規模の経済が効き、コストメリットを享受できそうな気がします。しかし、仮にA社は毎月コンスタントに100個の生産であるのに対し、B社は受注がばらつくためにある月はゼロ、ある月は一度に1,000個以上生産しなくてはならない、としたらどうでしょうか。当然、工場は1カ月に1,000個以上の生産に耐えうる設備や人員が必要になり、その分だけ前者の企業と比べても固定費が増えることになります。つまり、単純に生産個数だけでは規模が効くかどうかが判断できない、ということになります。

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