《ミドルのための実践的戦略思考》「規模の経済」で読み解く食品容器メーカーの資材調達担当課長・伊藤の悩み

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規模の経済が効くというのは、事業コスト全体の中で固定費の割合が大きいタイプの事業になります。事業に占める固定比率が高いビジネスは、生産量が増えれば増えるほど一つあたりの固定費が薄まり、結果的に低コストを実現できます。固定費だけを考えた場合、極端な話、1個売っても100個売っても事業全体では同じ固定費が計上されるわけですから、100個でそのトータルコストを割った方が1個あたりのコストは安くなる、というのは感覚的にも理解できると思います。

では「固定費の割合が大きいタイプの事業」とは一体どういう事業でしょうか。一般的には、研究開発費、広告費、減価償却費については、事業によっては巨額のコストがかかる場合があり、これらの費用が競争上のキモとなる事業は、規模の経済が効きやすいと考えてよいと思います。例えば巨額の研究開発費がかかるビジネスとしては、新薬創出型の製薬メーカーや自動車メーカーなどが上げられます。また広告であれば、食品やビールなどが考えられます。減価償却については、製造装置に巨額の投資が必要な半導体業界などが代表例になるでしょう。いずれにしても、これらの業界は規模の経済が効くために、結果的にグローバルレベルでの競争が繰り広げられています。

また、この手のことはもちろんメーカーだけに限った話ではありません。例えばコンサルティング・ファームなど、知恵やノウハウ、鮮度の高い情報が勝負のキモになるような業界では、その知恵を汎用的なパッケージとすることや、情報を素早く流通させるインフラを充実させる、といった勝負が繰り広げられています。これはつまり、知恵やノウハウ、情報を手間(=コスト)をかけて共有化することにより、規模の経済を効かせて、より質の高いサービスを効率的に提供するための施策なのです。この共通部分を作ることの難易度はものすごく高いのですが、一方でこの共通部分が高まれば高まるほど規模が効くビジネスになる、ということです。

他方、固定費のみならず、原材料などの変動費においても規模が効く、つまり生産量に応じてコストが下がる場合があります。

大量発注により売り手にとっての大口顧客になり、交渉力を発揮しやすくなること、つまり5 Forceで言うところの「売り手への交渉力」を得られることが背景です。それに加えて、売り手にとって物流や製造準備などのコスト効率性が高まり、結果的に低価格で提供しやすくなる、ということもあります。

なお、卸や仲介業のように外部調達(変動費)の比率が高く、研究開発など共通の固定費が薄いビジネスにおいては、一般的に規模の経済は効きにくいと言われています。しかし、家電量販店など顧客側の価格に対する意識が高い場合などは、その中でも少しでも価格優位性を出すために、規模を大きくして、変動費におけるスケールメリット(=大量発注による有利な交渉条件の引き出し)を狙う戦いになっています。

但し、いずれにせよ変動費は固定費ほど規模の経済は働きにくいと言われています。研究開発費や広告費は70%カーブ(生産が倍になれば3割コスト安)くらいを描く場合が多いのですが、原材料費の場合は90~95%カーブ程度がせいぜいの場合が多い*1です。また、銅やアルミ、石油などの更に川上の原料系については、相場で決まることが多く、大量発注による交渉力は全く関係ないケースがあるということも頭に入れておいた方がいいでしょう。

また最後に、固定費や変動費とは関係ない「広義の」規模の経済についても触れておきます。例えば業界内で売上が上位企業であれば、優秀な社員を採用しやすくなるといったことや、取引規模は少なくてもそのネームバリューによって有利な交渉条件を得やすくなるといったことはすぐに想像できると思います。これも、規模が有利に働く一例です。これらのことは、「経済性」とまでは言えないかもしれませんが、業界内での競争において、売上上位(規模の拡大)を目指すことの背景の一因にもなっています。

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