このように、マインドは良くなったのですが、では景気はどうでしょうか。実は景気実態はたいへん心許ない、と言わざるを得ないのです。
景気は「緩やかに回復」していない
政府や日銀は、「(アベノミクスが登場してから)景気は緩やかに回復している」という判断を続けています。たしかにアベノミクスの効果が出て、円安・株高が進んでいます。一時上昇していた物価が、2014年後半の原油価格急落の影響を受けて上がらなくなっていますが、下がっているわけでもありません。変動の大きい食料とエネルギーを除いたコアの消費者物価を見ると、小幅ながら上昇しています。アベノミクスの効果が出て、景気は回復しているというのが、政府・日銀の主張です。
しかし、輸出や生産など、景気に敏感な経済指標を見ると、残念ながら消費増税があった2014年の春をピークに、景気は後退しているように見えてくるのです。少なくとも回復はしていません。もう少し具体的に見てみましょう。
まず、円安になっても輸出が増えていません。円建ての輸出金額が増加して輸出企業の収益は良くなっていますが、輸出数量が増えていないのです。円安になると、輸出企業は現地の販売価格を下げて輸出を増やそうとするという目論見は外れました。
また、物価が上昇するというインフレ期待が広がれば、消費者は買い控えをしなくなるので消費が増えるはずでしたが、実際には物価上昇による実質所得の減少が消費を減らしています。
さらに、物価が上昇して実質金利が低下すれば設備投資が増えるという期待も、空振りに終わりそうです。投資に見合うリターンがなければ、実質金利がマイナスでも投資をしないというのが冷静な経営判断です。
前向き志向への転換
このように、景気は回復していません。言い方を変えれば、アベノミクスの思惑どおりに事は運んでいないのです。そこに、頼みの綱である中国をはじめとする新興国の景気減速懸念が広がってきました。こうして、日本経済の先行きに対する見方は弱気になっています。
安倍首相は、企業経営者に対して「賃金を上げるべきだ」「設備投資を増やすべきだ」と要請しています。それがアベノミクスを成功させるカギだというのです。首相が言っていることは正しいかもしれませんが、たとえ正しいことであっても、それは経営者が判断することです。首相に言われたから、賃金を上げたり、設備投資を増やしたりするというのは、あってはならないことです。
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