《ミャンマー軍事クーデターのその後》住居、仕事、お金、すべてを奪われても不服従運動を続ける市民たち─死も「怖くない」と語る彼らの"胸中"

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他に逃げ場はないの? あなたは英語も上手だし、海外に行くのはどう? そう聞くと、彼女は首を横に振った。

「出国審査で、パスポートや国民登録証を見せなきゃいけないでしょ。私のパスポートは公務員用だし、国民登録証には『医師』と職業が書いてある。医療CDMは目の敵にされているし、私はブラックリストに載っているかもしれないから、そこで逮捕されるリスクが高い。偽造パスポートという手もあるけど、それはそもそも犯罪だしね」

つまり、どこにも逃げ場はないということか。かつて目の前に広がっていた未来の可能性が、次々と閉ざされていく閉塞感。

結局、彼女は日銭を得るため、フェイスブックでオンラインビジネスを始めた。タイなどから安く仕入れた日用雑貨に、少し値段を上乗せして売るのだ。だが、ビジネスなどしたことのない彼女には勝手がわからない。売れ行きはどう? と聞くと「驚くほど売れない!」と笑った。そして「日本製だったらどうかな」と私に意見を求める。

前向きな彼女の姿勢に、すごいなぁと思う一方、猛勉強をして医師になり海外留学の夢まで摑んだ彼女が、雑貨を売って日銭を稼いでいる現実に、どうしても切なくなってしまう。

死ぬかもしれなくても「ぜんぜん怖くないよ」

もう1つ、彼女にした質問がある。「最近、武力での反撃の話をよく聞くけど、どう思う?」命を救う医師である彼女は、武力行使に対する懸念があるのではないかと思ったからだ。しかし彼女は穏やかに微笑み、迷いなく答えた。「Hopefully(そうなるといいな)」彼女のまっすぐな視線にたじろぎ、思わず言葉に詰まる。彼女は私に、嚙んで含めるように説明した。

「軍政下には、私たちの未来はないんだ。ありとあらゆるもの……、人生も希望も、すべてを犠牲にしなきゃいけない。そうなるくらいなら、私は闘いたい。私は医師なのに働く場所もない。ここまで大切に育ててくれた両親の面倒を見るお金もない。だからといって、どこかに逃げ出すこともできない。体は生きていても、心は死んでいる。もう他に、道はないんだよ」

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