従業員3人の町工場から「世界5強」に挑んだ!→「資料も師匠ない」逆境から《日本唯一のシンバル》をつくった76歳社長の執念

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通常、シンバルの製造工程では、この青銅の板を加熱炉に入れてやわらかくし、冷ました後に表面を削り(レーシング)、ハンマーで打って形と音を整え(ハンマリング)、最終調整をして完成する。けれど、錫8%の青銅加工では加熱炉は不要だったため、ひたすら青銅板をハンマーで叩いて形を整えることに。「力技」である。

しかし、これが難しかった。同じシリーズ名のシンバルをつくるには、「一定の強さで」叩く必要があるからだ。そこで、強さをコントロールできる「マシンハンマー」を開発することに。何度も改造を重ね、2003年にようやく完成した。

「数カ月前のシンバル」が教えてくれたこと

ところが、工場の床は失敗作で埋まっていく……。鳴らなかったのだ。思い通りの音を出さないシンバルが積み上がっていった。強く叩いても鳴らない。響きが悪い。失敗作の山を前に、小出社長は途方に暮れた。

突破口は、偶然訪れる。

ある日、小出社長は工場の片隅に放置されていたシンバルを手に取った。3カ月ほど前につくって、出来が悪いと判断したものだ。

何気なく叩いてみたら、「シャーン」と、いい音がした。耳を疑った。つくった直後は響きが悪かったはずのシンバルが、まるで別物のように鳴っている。

小出社長はこのとき初めて知った。シンバルは成形後、「寝かせる」必要があったのだ。

小出製作所 シンバル
シンバルを叩き、響きを確認して何度も調整が行われる(写真:筆者撮影)

ハンマーで叩かれた金属は、分子レベルで元の形に戻ろうとする力が働く。この力が落ち着くまで、最低でも1カ月は寝かせなければならない。寝かせることで金属組織が変化し、本来の音色が表れるのだ。

それを再び叩き、凹凸をつけると、叩いて硬くなった部分と、そうでない部分で振動が変化し、音に複雑な深みが生まれる。加えて、厚さでも音は変わる。

どの部分を叩くか、どれくらい削るか――。叩きすぎたり、削りすぎると割れてしまう。零コンマミリ単位の違いで、音は繊細に変化する。とにかく慎重に。叩いて、削って、音を聞き、また叩く――。

それこそが、シンバルづくりの真の姿だったのだ。

研究開始から4年目、小出社長はようやく核心にたどり着いた。

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