小出社長は大学を卒業後、1971年に入社。当時はおもに、カメラフィルムの「引き伸ばし機」に使うランプカバーをつくっていたという。これも、独特のR形状に高い技術が求められるアイテムだ。以来50年以上、金属加工と向き合い続けてきた。
話を1999年に戻そう。
シンバルをつくろうと決めた小出社長は、いきなり壁にぶち当たる。
まず、国内に参考にする資料がない。見学できる工場もない。仕方なく、図書館に通ってシンバルや金属の文献を読み漁った。王者ジルジャンのシンバルを購入し、材質や構造も分析した。大手金属メーカーに勤める従兄弟に、成分分析を依頼したこともある。
しかも、これらをすべてたった一人で。夜間や週末を研究に充て、昼間は本業の金属加工をこなす二重生活だ。趣味だった週末のゴルフも断り、代わりに金属加工の講習会に通った。目標が「シングル(ゴルフの実力あるプレーヤー)」から「シンバル」になったと笑う。
いったいなぜそこまで打ち込めたのか。尋ねると、「赤ちゃんはなぜ歩けるようになるのか。大人を見て、歩きたいと思うからでしょう? 新しいことをやるのは楽しいんですよ」と、どこ吹く風な表情を浮かべた。
「一定の強さで」叩けるマシンを求めて
シンバルの材料として主流の青銅が手に入ったのは、研究を開始して3年目だった。青銅とは、銅と錫(すず)の合金のこと。
工業製品に使われる一般的な青銅は、銅に対して錫の含有量が10%程度のものを指す。けれど、シンバル用は20%以上が必要とされる。国内にはそういった青銅を取り扱うメーカーはなかった。
そこで、当時普及し始めたインターネットの力を借りて調べたところ、スイスのパイステ社がドイツのメーカーから調達していることを突き止めた。錫の含有率は8%だが、比較的安く、パイステ社が使っているなら……と選んだのである。


















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