戦後日本リベラルは台湾に無関心で無理解。高市首相の「台湾有事」答弁で改めてわかった中国に沈黙する構造問題

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「台湾有事≠日本有事」を唱えつつ歪んだ台湾論を展開し、勝手に台湾社会の一部にみられる論調だけを取り出して「これこそ台湾の民意だ」「台湾海峡の安定に資する」などと主張する日本のリベラルとされる知識人のうち、一体どれほどが現地の言葉を学んで台湾の社会運動に参加し、台湾社会とその歴史を理解しようとしてきたのだろうか。

戦後(おそらく戦前も)台湾の歩みを十分に理解しているとは言いがたい日本の知識人たちが、台湾についてはあたかも当然のように語ることができてしまうこの知識形成における非対称性こそ、「反帝国主義」という名のもとに、実際には元宗主国の人間が享受している特権的な構造であり、むしろ帝国主義を再生産する危うさを抱えている。

挑発に敏感な中国に対して、高市氏の答弁が「日中関係の急速な緊張」と「偶発的衝突の危険性」を高めかねないことは批判されるべきことだ。実際、中国政府は高市答弁を受けて自国民に日本への渡航自粛や沖縄県周辺での軍事演習など報復措置を実施し続けている。

「中国を挑発しない」が非現実的な現実

しかし、ここで忘れてはならないのは、実際に軍事威嚇と威圧的な行動を現実化させている中国側の動きに対して批判的な視点を持たないことは、台湾社会が常に中国の軍事威嚇――すなわち「偶発的衝突の危険性」――のなかで暮らしているという現実を見ない態度にほかならないということである。残念ながら近年、中国による台湾周辺での軍事演習は急増し、それが台湾人にとって常態化しているという現実がある。

もし、日本のリベラル派も個人の人権を重視し、自由や民主的な価値観を大事にするのであれば「台湾の安全」にも思いを向けてもらえるだろう。そして批判の焦点として「台湾有事」に関する答弁を行った高市首相だけでなく、中国による継続的な軍事的威圧と拡張の動きも含まれるはずだ。

「中国を挑発しない」という姿勢は政治的戦略としては成立する。ただし、リベラル的価値観とは相容れないものである現実がある。台湾人が自らの歴史的経験を踏まえ、自らのアイデンティティを「中国人ではなく台湾人」として主張することそのものが、中国からすれば「挑発」として扱われるからである。

リベラル的価値観に基づいた主張や自らのアイデンティティそのものが他国にとって挑発、そして軍事的威嚇の対象になるというおぞましい状況が台湾人の現実である。高市首相の答弁を端に発して、2025年の最後の2カ月弱に改めて日本での台湾理解の歪さが明らかになったが、健全な議論のためにまずは台湾の現実を日本のリベラル派に理解しておいてほしいと願ってやまない。

鍾 宜庭 スタンフォード大学博士課程

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ちょん いーてぃん / Yi-Ting Chung(Gî-Têng Chiong)

台湾出身。早稲田大学で学士、イェール大学で修士号取得後、現在スタンフォード大学歴史博士課程に在籍中。専攻は東アジア史およびトランスパシフィック・ヒストリー。

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