戦後日本リベラルは台湾に無関心で無理解。高市首相の「台湾有事」答弁で改めてわかった中国に沈黙する構造問題

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まず日中共同声明の引用と同様、呼びかけ文は「台湾は中国の一部である」という中国政府の立場を批判することをせずに、「中国側にとっては、日本が再び台湾に軍事介入しようとしていると映り、中国を挑発し」という形で、中国側の主張に沿う読み方を可能にしてしまっている。この姿勢は、1949年の国共内戦後に台湾が中国と実質的に分離し、軍事独裁政権下でもなお台湾アイデンティティの台頭と民主化を成し遂げたという現在までの台湾の歴史や政治的状況を完全に無視している。

2つ目に、呼びかけ文は「再び」という言葉を使い、日本が台湾に軍事介入するのは2度目になると暗に示している。ここでの「1度目」とはおそらく、1895年の日清戦争の結果、台湾が日本に割譲した際の出来事を指すのだろう。

しかし、この論理は19世紀末の清朝と現在の中国政府を同一視してしまっている。19世紀末の清朝と、現在の中国(中華人民共和国)政府は政治体制・国家構造・領土観のいずれにおいても異なり、清朝による台湾統治を現在の中国政府の主張にそのまま接続させる読み替えは、中国政府がしばしば用いる「台湾は古来中国の不可分の一部」という歴史観と同様に、台湾と中国にある断絶の歴史を覆い隠してしまう。

中国の「帝国主義」に沈黙

最後に、呼びかけ文は「日本はかつて台湾を植民地支配していた」という歴史的事実を正面から指摘している一方で、中国も歴史的に台湾へ帝国主義的支配を行ってきたことには沈黙している。マサチューセッツ工科大学のエマ・テン教授が提示した論点の通り、帝国主義は西洋列強に固有のものではなく、清朝による台湾統治もまた明確に「帝国主義」として理解されるべきものである。

今まで指摘してきた台湾の歴史や現在の状況は、日本語の文献でも容易にアクセスできる知識である。日本は植民地支配の歴史ゆえに、台湾以外で台湾研究が最も盛んな地域といって過言ではないほどの研究蓄積を持っている。

それにもかかわらず、今回の高市答弁を受けて改めて見られた「台湾有事≠日本有事論」のような台湾理解の歪みは、戦後日本のリベラルが「反帝国主義」を掲げながら、実際には自らの旧植民地に向き合うことを避けてきた姿勢の結果にほかならない。

多くの台湾人がそうしているわけではないが、筆者自身を含め、一定数の台湾人研究者や社会運動家たちは、日本と沖縄に足を運び、反基地運動や安保関連の社会運動に日本語を学んだうえで参加し、「帝国の狭間」と位置づけられてきた人々の歴史を必死に理解しようとしてきた(台湾人留学生が日本の社会運動に参加した一例としては、木下ちがや氏の『「社会を変えよう」といわれたら』が参考になる)。

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