ひとりで暮らす人の部屋で、その人の人生に耳を澄ませながら、現代社会の輪郭を浮かび上がらせる連載「だから、ひとり暮らし」。
2024年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、65歳以上の世帯のうち約33%、およそ3世帯に1世帯がひとり暮らしだ。「高齢になったらひとりで暮らす」ということが、もはや当たり前ともいえる世の中となった。
今回お話をうかがう、テネキ~・カルメンさん(仮名・76歳)も、その一人だ。
前編では団地と年金という現実的な条件のなかで、カルメンさんがどのように人生を立て直してきたのかを見てきた。後編では、団地での穏やかな暮らしの奥にある、“人との距離のむずかしさ”について聞いていきたい。カルメンさんは、朗らかな笑顔の裏側に、誰にも言えない思いを抱えていた。
人との関わりに傷つき、今もなお揺れる心情を、語ってもらった。
実の父親よりは“マシ”だと思っていた
46歳のとき、夫と暮らす団地から、娘2人を連れて逃げ出したカルメンさん。肉体的、精神的な暴力を受けていたが、すぐに逃げ出さなかった理由のひとつは、「自分の父親に比べればマシ」だという思いがあったからだという。
「私はとんでもない家庭に生まれつきました。誰にも理解してもらえないような。父親が酷かったんです。だから家に居るのがつらくて、中学を出てすぐに地元の富山から近い、石川県の工場で、住み込みで働きました」(テネキ~・カルメンさん 以下の発言すべて)
どんなお父さんだったのですか? とたずねると、カルメンさんはしばらく言葉に詰まった。それから、ひとことひとこと、絞り出すように話してくれた。



















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