「子どもを育てながら、ひとりで生きていくのは大変。娘たちも苦労したと思います。夫と上手くいってないのに、なぜ子どもを生んだのかと、自問することもありました。子どもなんて、いないほうが勝ち組じゃないか? と思うこともあるくらい。
でも、私は人間不信だったから、逆に血を分けた誰かが欲しかったんです。血のつながった人なら、自分のことを分かってくれるんじゃないかって。実際は、それほどでもないんだけれどね(笑)。それでも、憧れた、好きだった人の子どもを持てたことは、良かったです」
子どもにも孫にも「責任」を感じている
娘たちとの関係性を聞くと「難しい時期もあった」という。
「離婚してからは、次女は家にあまり帰ってきませんでした。家がボロボロ過ぎて、嫌だったんでしょうね。次女とは大人になってから疎遠になって、1年間ほとんど連絡を取らないときもありましたね」
長女は離婚した当初、私立高校から公立高校に編入し、次女は奨学金を受けた。カルメンさんだけでなく、娘たちも厳しい時期を乗り越えてきたに違いない。今は2人とも結婚して子どもを持ち、不自由なく暮らしているのだという。
「娘たちはしっかりしているので、私にも、なんでもできる母親を求めているのだと思います。長女にはよく『お母さんには、こんなことはできないでしょう』って駄目出しされます。例えば通っているジムにアクティブな高齢者がいて、『お母さんにはできないと思った』とか。そんなことを言われると、疲れてしまって……」
カルメンさんはうなだれるが、娘も悪気があって言っているのではないだろう。母と娘は、心の距離が近い。母は誰よりも娘に認められたくて、また娘は母に認められたいものだ。しかし近い関係であるほどに、認めてほしい気持ちと、素直になれない気持ちが入り混じり、お互いに当てこすりのような言葉を投げ合ってしまうことも、あるのではないか。
「どうだろう。ただ責任は感じています。子どもたちを産んだのは私だから。娘たちにはなんとか生きていってほしいと思っている。だから貯金もしています。
それに私を助けてくれている年金制度なんかが、娘や孫の代まで続いていってほしい。自分の子孫のことばっかり考えて、自分勝手かもしれないけれど……これは子どもを産んだから思うことです」
そう話したあとで、カルメンさんは照れくさそうに言った。
「毎年、年末年始には長女の家に泊まりに行くんです。そこには高校生になった孫がいるんだけど、その子が自ら『人間大好きだもん』って言うんです。運動系の部活動も頑張っているみたい。私には似つかわしくない孫で、嬉しくて。人間が嫌にならないように、このまま育ってほしいものです」
孫が“人が好き”と言えること。それは彼女にとって、大きな慰めかもしれない。苦労を重ね「子どもなんて、いないほうが勝ち組」とさえ思ったカルメンさんだが、そのとき目を細めた表情からは、「子どもや孫の行く先が、少しでも穏やかであってほしい」という願いが読み取れた。


















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