「替え玉は、もともと魚市場のそばにある長浜ラーメンから始まったんです。市場で働くひとたちが早く食べられるように生まれた。熱々で伸びない麺を早く食べたい。早く提供するには麺を細くしないといけない。でも細い麺は伸びやすい。大盛りにすると最後は伸びてしまう。そこで生まれたのが替え玉なんです」
魚市場で働いた経験を持つ社長は、市場で働くひとたちの時間感覚を知っている。
「博多のひとの“わがまま”から生まれたんです」と笑う。「わがままに応えていたら、うちのラーメンもこんなカタチになった」。
10年で1000店舗、みんなで豊かになる
取材中、澄川社長が何度も口にしていた言葉がある。
「みんなで豊かになる」だ。
「何のために会社が存在するのか、事業を行うのか。そこがちゃんとわかる人材を育成し、輩出していく。飲食店を通じて、ひとを育てたいんです」
その言葉を実現するため、組織体制も変えた。これまで業態ごとに置いていた部長を廃止し、本部で一括して全業態を統括する。人材育成を軸に、店舗拡大に耐えうる体制を構築中だ。その中心にいる営業統括部長の野村一美さんは、社長についてこう語る。
「コロナ禍では営業制限がかかるなか、全員でお弁当販売に取り組みました。厳しい状況でも、大きくはないけれどボーナスまで出してくれて、みんなで頑張ろうって思えましたね」
2025年12月現在、ラーメン、うどん、そば、ガレットと計31店舗を展開する昭和食品工業。澄川社長が見据えるのは、10年後の未来。2035年に1000店舗を目指す。
「直営店だけでやろうとしたら、10年で1000店という発想は出てこない。自分のエゴイズムでやろうとしても絶対できません」
はかたやには外国人スタッフも多い。「家族を呼びたい」「自国でこのラーメンを展開したい」という夢を持つひともいる。社長は、彼らが成長し夢を実現できる体制作りを進めている。
「そもそもチェーンストアの発想は、一部の経済的にゆとりのある層だけがいい思いをするのではなく、普通のひとたちが幸せになる世の中を作ろうというもの。うちの価格帯のラーメンなら、その道具になれるんです」
社長は「経世済民(けいせいさいみん)」という言葉を使う。世の中を治め、民を救う。利益の最大化ではなく、ひとの暮らしを豊かにすることが会社の存在意義という考えだ。
仕事を提供し、ひとを育て、そのひとがまた店を持つ。290円のラーメンを起点に、良い循環を世界に広げていく。それが1000店舗を目指す理由だ。
とはいえ、どうやって実現するのか。



















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