たしかに、いつものスーパーが値上げしても、「また値上げか」と思うだけで、誰も声を上げない。静かに別の店へ向かう。それを「仕方ない」と受け入れてきた。
一般的に、飲食店の価格設定は「原価積み上げ方式」だ。材料費・人件費・家賃などを積み上げて利益をのせ、最後に売価を決めるという標準的な方法である。
しかし澄川社長は、そもそもその土俵に乗らない。
「原価が上がったから売価を上げるのは、企業の存在意義が問われます。売価を上げる前に“やれること”はまだある。人件費を削るのではなく、作業を減らすんです。作業量と人件費は本来イコールであるべき。作業を減らすことで原価上昇分を吸収し、利益を確保しながら、むしろ顧客満足度を高められる」
売価を「どう上げるか」ではなく、価格を守るために「どれだけ作業を減らせるか」。
同社の利益モデルは、足し算ではなく“引き算の経営”にある。
飲食店を"工場"として捉える
澄川社長の“引き算の経営”を支えているのが、製造業で発展してきたインダストリアルエンジニアリング(IE)の考え方だ。
IEとは、作業のなかに潜む「ムリ」「ムダ」「ムラ」を見つけて取り除き、生産性を最大化するための手法だ。はかたやの店舗で目にする、シンプルな調理工程や「2杯ずつラーメンをつくる」工夫、動線が短いコの字型カウンターなどは、その実践例だ。
工程や作業、仕組みやルールを一つひとつ磨き込むことで、不要な作業が減り、人件費は自然と下がる。結果として品質は安定し、ブレがなくなる。その積み重ねが、原価上昇分を吸収できる強いコスト構造をつくり出しているのだ。
飲食店でありながら、なぜ“工場の手法”を取り入れているのか。その原点は、三代にわたる商売の歴史にある。
戦後、炭売りから身を起こした初代の祖父は、やがて学校の体育館や公民館で映画の上映事業を始め、その後に広げたホテル・飲食業で養われた“チェーンの運営技術”が、昭和食品工業の礎となった。
2代目の父・正夫さんは、ニトリやイトーヨーカ堂も学んだ日本リテイリングセンターでチェーンストア理論を学び、「飲食チェーンは、製造と販売を一体で行う“製造直売業”であるべき」と考えるようになった。



















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