日高屋の変化の発端は2020年4月、店内を完全禁煙にしたことにある。東京オリンピック開催を前に、厚生労働省の「健康増進法」が改正になり、飲食店が原則禁煙となるタイミングに合わせての決断だった。
「それまでの日高屋は、おっしゃるとおり『サラリーマンのオアシス』でした。駅前店舗に会社帰りのサラリーマンが集まり、タバコを吸いながら酒を飲むスタイルが主流でした」と青野社長は振り返る。
当時のアルコール比率は17%もあったそうだ。青野社長によると、「居酒屋をのぞき、一般的な飲食店のアルコール比率は平均3%程度」というから、かなり高い。
また、禁煙化以前は当然だが、嫌煙家やファミリー層はほとんど訪れなかった。しかし禁煙化後、変化が起こる。といっても当初はコロナ禍で客足が激減しており、影響はよく見えていなかった。
兆しは、ロードサイド店から見え始めたそうだ。コロナ禍中は駅前から人がいなくなった一方、ロードサイド店で比較的安定した売り上げが取れていた。そのため郊外の主要道路沿いに新店をオープンしたところ、集客に成功した。それも、家族連れが多く訪れていることが分かったのだ。
そこで日高屋は2021年から、千葉県の鎌ケ谷市や野田市をはじめ、北関東を中心にロードサイド店を積極的に出店した。現在は全433店舗のうち、52店舗をロードサイドに構える。
「コロナ以前は20店舗ほど、全体の5%未満でした。でもコロナ以後、様々なお客様が取り込めることが実証できました。その価値に気づいたのです」(以下、すべて青野社長)
客層の変化は、遅れて駅前店にも表れはじめた。家族連れ、女性客、冒頭のような高齢客も訪れるようになったそうだ。男女比も、コロナ以前は男性8:女性2だったところから男性6.5:女性3.5に変化した。
ドリンクバー270円でファミレスに対抗
次に日高屋は、ロードサイドの比較的大きな新店に、270円のドリンクバーを設置する施策に打って出る。ファミレスへの対抗手段だった。
日高屋は「中華食堂」という立ち位置で、料理だけでも110種類をそろえる。その厨房で、アイスクリームなど子供向けメニューを増やすことは難しい。けれどドリンクバーなら、マシンを設置するだけで済む。
「昔うちの息子に『日高屋とサイゼリヤがあったらどっち選ぶの?』と聞いたら、サイゼリヤって言われたんです。ドリンクバーがあるからって。子供は『いろんなジュースが飲める』っていうのがやっぱり魅力的なんですよね」
主婦の昼飲み会などに参加する、ノンアルコール派にも好評だ。アルコールは3、4杯飲めても、ノンアルコールドリンクでその量はきつい。杯数を問わないドリンクバーがあることで、集まる場に選ばれやすくなっているという。
現在、13店舗にドリンクバーを設置しており、土日は200~300の注文が入る。1人3杯飲むと考えても、600~900杯だ。集客の大きな要因の1つになっていることは間違いない。



















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