酒向:私はもともと脳外科が専門でしたが、リハビリ医に変わってから22年になります。全力で何かをしたときに無条件で喜んでもらえることって、世の中にそんなに多くないと思います。でも医療は、こちらが一生懸命治療することによって患者さんがよくなっていき、ご本人にもご家族にも喜んでもらえます。
その笑顔を見るだけでこちらも嬉しくなれます。これまで関わってきた2万人ほどの患者さんからいつも幸せをもらっていて、毎日本当に幸せです。
窪田:整形外科からリハビリに移るケースはよく聞きますが、脳外科からリハビリに行かれる方はそう多くない印象がありました。
酒向:そうですね。脳外科からだと、「疲れたから、急性期を退いてリハビリに行く」という方が結構いらっしゃいました。
そうした方はやや消極的な理由だったかもしれませんが、私の場合はちょっと違っていて、一応、脳外科医として現役バリバリのときにリハビリに変わったんですよ(笑)。
「酒向先生に治せないものを治せるわけない」
窪田:リハビリに行こうと思われたのはなぜですか?
酒向:脳外科医とは脳の病気を治療する医師ですが、手術が好きでその技を極めていこうというタイプと、患者さんの回復が好きで術後も見たいというタイプがいるんです。私はその患者に寄り添った回復を総合的に求めるタイプで、手術も含めたあらゆる手段で患者さんをよくしたいと思っていました。
2000年代初頭のことでした。当時私は脳外科医としてそこそこ一丁前になり、国立大学病院の講師として手術をするようにもなっていました。ただ、われわれが治療する前にすでに脳が大きく壊れてしまっている方は、いくら完璧な手術をしても大きな後遺症が残ってしまいます。
でも脳外科医としては、手術が成功すれば「では、今後のリハビリをよろしくお願いします」と言って終わりになるわけです。
ある重症の患者さんの手術のあと、私が望んだほどの回復が見られないと感じて、リハビリの先生に「もう少しよくなるはずだと思うんですけど」と言ったことがありました。
するとその先生は、「酒向先生に治せないものを、私が治せるわけないじゃないですか」と答えたのです。そのときに「ああ、これはお任せしていたらダメなんだ。自分でリハビリができる医師になろう」と。その後、2004年にリハビリ医に転向しました。



















