人間が変わらなければ自動運転は実現しない ベンツのプロジェクト支えるキーマンが語る

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清水:哲学的で難しい言葉ですね。

マンカウスキー:哲学的に聞こえるかもしれませんが、実際にみなさんも体験していることで、非常に単純な話なのですよ。人間は何かにフォーカス(集中)しているときは脳がコンピュータのように動いています。これがステップ・バイ・ステップ。しかし、人間の頭は無意識のうちにほかのところに行くことがあります。

たとえば、鳥が飛んでいるとか、窓の外に木が生えているとか。そうこうしているうちに、いきなり解決策がわくという体験をしたことがありませんか。そのアイデアは天から降ってきたのではなく、無意識に働いている脳の活動によって生まれたものです。無意識のうちにほかの物を見ているからこそできること。突然のひらめきの正体はまさにこれです。芸術家やアーティストのなかには意図的にひらめきを生じさせることができる人もいるそうですが、いずれにしても、ひらめきは天から降るものではありません。

清水:エンジニアのなかにはシステムは人間のやっていることを100%再現できると考えている人もいますが、システムが人間を超えることはなさそうですね。

マンカウスキー:おっしゃるとおりです。エンジニアは「自動運転車はもっと人間みたいに運転をすべきである」と言うのですが、私は「その前に人間とは何かを定義しなさい」といいたい。人間と一口に言っても、一人ひとりみんな違います。ボディランゲージもジェスチャーも行動も違いますよね。その前提に立ってお互いを理解しようとしているから、何とか平和に共存できているのだと思います。

もし仮に、部屋の中にロボットが一体あったら、私たちはそのロボットが何者かを解釈しなければなりません。理解なしではただの恐ろしい存在です。ドローンも同じです。最初はただ飛ぶだけでの存在で、人間とコミュニケーションを取らなかったため、とても恐ろしいものでした。しかし、このごろのドローンはレーザーなどを使って表現ができるようになり、私たちと意思疎通を図れるようになってきましたから、最初のころの恐ろしさが薄れてきたと思います。

「車を作ることは人間研究だ」

清水:メルセデスは昔から人間を知ることに情熱があり「車を作ることは人間研究だ」という姿勢を貫いてこられました。人間重視の姿勢は自動運転になっても変わらないようですね。

マンカウスキー:今の自動車は第二次世界大戦の後から本格的に普及してきましが、人間が車に慣れるまでに50年もの歳月がかかりました。自動運転についても、人間の意識を高めるための啓蒙活動が必要でしょう。そのとき、回避すべきは擬人化です。人間は動いているものをなんでも擬人化します。ヒューマノイドにハートの絵が描いてあったり、笑顔が描いてあったり。自動運転の世界では、そういう意識こそが危険だと思っています。

私はこれから15年ほど経てば、公共の道路はすべて自動運転になるのではないかと思っています。もちろん世界中でそうなるのではなく、先進国の一部に限った話です。都市部は交通が混み合っていますが、簡素化しようとすれば自動運転も実用化できると思いますし、人間と車が空間を共有するシェアドスペースの考えが必要になるでしょう。かたや地方都市では交通事故をゼロにするという発想から自動運転が広がると思っています。

もうひとつ重要な視点は人間も変わるということ。いまやスマホはいつでもどこでもネットにつながって、いつでもグーグルを使えるのが当たり前になりました。私たちの考え方もスマホが登場する前と後では変わりました。技術が人間を変えるのです。15年も経てば、自動運転が当たり前になっていると思いますよ。

清水:ありがとうございました。

清水 和夫 国際自動車ジャーナリスト

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しみず かずお / Kazuo Shimizu

1954年 東京生まれ 武蔵工業大学電子通信工学課卒業。1972年のラリーデビュー以来、プロドライバーとして、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活躍を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通している。日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』 ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。日本自動車ジャーリナスト協会 日本交通医学研究会 会員。日本科学技術ジャーナリスト会議 会員(JASTJ)。

http://www.startyourengines.net/

https://www.facebook.com/kazuoshimizuofficial/

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