親父の好きな本は、いつしか浩一の好きな本にもなった。親父に薦められて買った本はハズレがなく『竜馬がゆく』『窓ぎわのトットちゃん』『トム・ソーヤーの冒険』どれも夢中で読み耽った。あの野口英世の伝記も、子供向けに何かいい本はないですか、と母が店主に訊いて購入した本だった。
五月末の学校帰り、浩一はいつものように朝日堂書店へ立ち寄った。中間テストも終わったので、しばらくは好きなだけ本が読める。親父に最近のお薦めを訊こう。その親父から、閉店を検討しているという話を聞かされて愕然とした。
売上減少と万引きの増加
「坊主も知ってるかもしれんが、書店で本を買うお客さんは激減していてな。阪井さんとこも店を畳んだし、とうとう、うちが街で最後の書店になっちまった。まぁ、無書店市町村なんてのも今じゃ珍しくないし、これも時代の流れってやつだろうなぁ」
売上減少に追い打ちをかけるように、万引きまで増えているという。
「警備を雇うような金はないし、誤認でもしたら店の信用にも関わるしなぁ。今は何かあったら、すぐネットに書かれちまうし。売上が落ちるのは仕方ないけど、万引きまでされたんじゃもうやっていけんよ」
浩一はその万引き犯が許せなかった。親父の本屋が、犯罪によって潰されようとしている。どうにかしてその万引き犯を捕まえられないだろうか。
朝日堂に監視カメラはないし、現行犯でしか捕まえられないだろう。報道番組でたまに見る万引きGメンでも雇えればいいが、たぶんそんな費用はない。
浩一がふと想起したのは、いつか朝日堂で立ち読みしたオカルト雑誌の記事だった。“令和の必殺仕事人か”という見出しの記事で、内容は詳しく覚えていないが、金銭ではなく依頼者の動機によって復讐を代行するとかなんとか記されていた。そのサイトは、ダークウェブに存在するとも──。
──僕にお金はないけど、動機なら持っている。
浩一は帰宅すると、まずダークウェブへの接続方法をスマホで調べた。何時間かかけて接続方法を理解し、専用のアプリをスマホにDLする。するとホーム画面に、紫色のたまねぎみたいなアイコンが現れた。アイコンからダークウェブへと入り、雑誌に記されていたサイトを探す。


















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