法と経済で読みとく雇用の世界 働くことの不安と楽しみ 大内伸哉、川口大司著 ~雇用の今日的問題を平易に解明
年功賃金、長期雇用、企業別組合という、大企業の正社員を中心とした日本型雇用の特徴は高度成長の下で形成された。しかし1990年代以降、日本型雇用の合理性は失われ始め、それを支える労働法制にも綻びが目立つ。ITデジタル革命やグローバリゼーションの進展、低成長の継続などを背景に、技能蓄積を促す対象と企業が考える労働者が減っているのである。
本書は、内定取消や非正規社員の雇い止め、男女間の待遇格差などさまざまな雇用問題を法学者と経済学者が論じた「法と経済学」の研究書である。各章の冒頭で問題点が生々しい物語形式で語られ、その後、理論的に分析する構成をとり、平易な言葉と相まって大変読みやすい。
厳しい解雇法制が、企業の採用行動を慎重にさせていることは周知の事実である。問題解決策として金銭的な補償を解雇ルールに加えることも一案だが、本書では、解雇規制の持つ正社員の技能蓄積促進というプラス面を重視し、中途採用の試用期間における規制の適用除外が有効であると論じる。障害者雇用については、すべての企業に一律に雇用を義務付ける現在の法制は非効率で、障害者雇用枠を企業間で自由に取り引きし、障害者の活用が得意な企業により多くを雇うインセンティブを与える制度が有用という。
疑問に思ったのは、非正社員が増える中で、労働組合が今後どう変化していくのかという点である。非正社員への配慮を見せる組合もあるが、正社員を対象とした企業別組合の対応は限られる。コミュニティ・ユニオンなど企業外の組合への非正社員の加盟が増えるなら、非協調的な労使関係が広がる可能性もある。あるいは、そうしたコストが大きいのなら、正社員として取り込む動きが広がってくるのだろうか。
おおうち・しんや
神戸大学大学院法学研究科教授。専攻は労働法。1963年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。
かわぐち・だいじ
一橋大学大学院経済学研究科准教授。専攻は労働経済学。1971年生まれ。米ミシガン州立大学大学院経済学研究科博士課程修了。
有斐閣 1995円 320ページ
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