「地頭のいい人」ばかりを集めても成果は出ない…IQでは測れない"本当に重要な知性"

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最初に想定されたのは、(1)さまざまなことに対応できる知性を持つ、すなわちIQの高い個人がチーム内に一人でもいれば、そのチームの成績は良くなるだろう、あるいは、(2)チームにいる人たちみんなの知性、すなわち平均IQが高ければ、そのチームの成績は良くなるだろうという可能性だった。「地頭がいい人はなんでもできる」「だからどの課題をやるにしてもそういう人がいるチームのほうが有利」だとか、「全員地頭がいいのならば、チームとしてだって当然うまくいくだろう」というように、私たちは集団にも個人の論理を当てはめてしまうものである。

しかし実際には、(1)の個人の最高IQも、(2)の平均IQも、チームとしての成績には関係がなかった。チームとしてさまざまな課題に対して高い成果を出すために、一番関係があったのは、そのチーム内に、人の気持ちにどれだけ敏感かという「社会的感受性」が高い人がいるかどうかだった。

感情労働は、人間と人間のアラインメント

この研究では、社会的感受性を測るのにイギリスの発達心理学者サイモン・バロン・コーエンの開発した、目元の写真だけを見てその人がどんな感情を抱いているかを当てるテスト「目から心を読むテスト(RME: Reading the Mind in the Eyes Test)」が用いられた。すなわち、チーム内に、目の表情、必ずしも言葉にしない気持ちについて察知する能力が高い人がいると、そのチームの成績は良くなっていたのである。

その他にも、チーム内の会話のやりとりが詳細に調べられた。いつも特定の人だけがしゃべっているのではなく、全員に均等に発言の機会が与えられているようなチームは、成績が良かった。

そして、女性の数が多いチームほど成績が良くなっていた。女性は、平均的に見ると男性よりも共感能力が高いと言われている。つまり女性がいることでチームの成績が上がるのは、やはり社会的感受性が要因だと推測された。

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男性女性はさておいて、チームメンバーに気を配り、一人ひとりが力を発揮できるように、やりにくそうにしている人がいたら声をかける。そんな存在こそ、チームとしての成績を上げる本当の要因になっていたということだ。感情面の努力が大事なのである。一人ひとりは別の個性を持っているのだから、それぞれの力が最大限に発揮されるのが一番良く、それぞれの人が力を発揮できる気持ちの良い場を作れることもまた、大事な才能なのだ。そしてIQという指標には、そのような能力は反映されていない。さらにこのような感情の働かせ方は、会社で言えば、その人のおかげで成果が上がるのにもかかわらず、給料には反映されてこなかった能力であろう。

感情労働の能力が高い人がいると、チームは大きな成果をあげることができる。感情労働は、今後、もっと評価されるべきものなのである。

恩蔵 絢子 脳科学者

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おんぞう あやこ / Ayako Onzou

1979年、神奈川県生まれ。脳科学者。専門は自意識と感情。2002年、上智大学理工学部物理学科卒業。07年、東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士) 。現在、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員。金城学院大学・早稲田大学・日本女子大学非常勤講師。

著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、共著に『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』『認知症介護のリアル』、訳書にアンナ・レンブケ著『ドーパミン中毒』などがある。

2023年に放映されたNHKスペシャル「認知症の母と脳科学者の私」は、大きな反響を呼んだ。

X  https://x.com/ayakoonzo

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