「そりゃ、証拠なり物証なりがあれば捜査するけど、半年も前の特殊詐欺じゃねぇ。いずれにせよ金は取り戻せないと思うけど」
俺は金のために動いているわけじゃない、健人は苛立ちつつ言う。
「相手の電話番号なら残っています。これは立派な証拠でしょう」
「そりゃ飛ばし用の番号でしょ。その番号から詐欺集団を辿るなんてまず無理だよ。まぁ、親族なら被害届は出せるから、これに記入してくれる?」
健人はボールペンを放り出して交番をあとにした。被害届なんて出しても無駄だ。あんな連中が熱心に捜査するわけがない。とはいえ無職の小市民の俺が、どうやって詐欺集団に立ち向かえばいいんだろうか──。探偵でも雇うべきだろうか──。
ダークウェブを潜って見つけたのは…
自宅へ戻ると、二階の自室へと駆けあがった。父母は今も共働きゆえに、日中は家にいない。無職の健人にとっては、むしろ都合が良かった。下手に顔を合わせて、小言など聞きたくはない。
もちろん健人にも、かつては職業があった。チェーン店の居酒屋でキッチンを担当していたが、人間関係がうまくいかず三年で退職した。その後に飲食系の派遣社員として三年働くも派遣切りされ、アルバイトを転々としているうちに、気づけば実家暮らしの三十歳の無職になっていた。
無職になった健人は、意味もなく髪を金色に染めてパチンコ通いを始めた。そして珍しくスロットで当たり、メダルでドル箱を一杯にしている最中に、あの電話がかかってきたのだ。お孫さんが交通事故に遭いまして──。
二階の六畳の子供部屋は、雑然と物で溢れている。パチンコ雑誌やら漫画本やら脱ぎ捨てた衣服やらが、床に散乱している。さっそくデスクでノートパソコンを起動させて、ネット検索で探偵について調べた。
探偵事務所はすぐに見つかったが、依頼料はどこも数十万に及ぶ。とても自分に払える金額ではない。
最終的に健人は、ダークウェブまで潜った。以前、オニオンちゃんねるを見るために、興味本位で専用ブラウザをDLしたことがある。ダークウェブには違法取引市場の他に、復讐代行サイトもあると何かのスレで読んだ。



















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