でも小学校高学年にもなると、もう祖母に面倒をみてもらう必要はなくなった。祖母とは次第に疎遠になり、盆と正月に顔を合わせる程度になる。成人してからは、もう数えるほどしか会っていない。
──その婆ちゃんが俺の身を案じて、迷わず二百万も払ってくれたのだ。
祖母は日に日に衰弱していった。ほとんどベッドで寝たきりになり、瞳からは生気が消えていく。傍目にも、祖母がもう長くないことは明らかだった。
「婆ちゃんの無念は、俺が晴らしたるからな」
婆ちゃんが死ぬ前に、何か孝行ができないだろうか──。祖母への孝行といえば、小学六年のときに花柄のポーチをあげたくらいだった。それも母親に、敬老の日なんだからお婆ちゃんになんかあげたら、と言われて、近所のスーパーで買った三百円のポーチだ。
あんなのは孝行のうちに入らない。婆ちゃんが死ぬ前に、何か本当の恩返しをしたい。世界一旨いアップルパイのお返しをしたい。そんなことを考えている矢先に、祖母の容態は急変して帰らぬ人となった。
健人は思う。婆ちゃんは詐欺に騙されたショックで持病が悪化したんだ、家族の一人を半グレという社会のゴミに殺されたも同然じゃないか──。
婆ちゃんを騙した連中に、仕返しがしたい。二百万は取り戻せなくてもいい。ただ奴らに、相応の懲罰を与えたい。それが今の俺にできる、婆ちゃんへの唯一の孝行だ。
健人は祖母の仏壇の前で手を合わせ、心の中で唱えた。
──婆ちゃんの無念は、俺が晴らしたるからな。
祖母が騙されたのは初夏だったが、季節はもう晩秋に移ろっていた。健人は愛用の黒のダウンジャケットを羽織り、自転車で最寄りの交番へ向かった。
詐欺集団への懲罰といえば、つまりは警察に逮捕されて刑務所へぶち込まれることだ。もう世間体もクソもない。健人は交番で、詐欺被害の件を訴えた。応対した年若い警察官は、どことなく迷惑そうに言う。
「今さら被害届を出すの? 本人は亡くなってるのに? まぁ別にかまわないけど……」
「被害届を出したら、連中を逮捕してくれるんですよね?」



















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