
祖母の特殊詐欺被害
田辺健人(けんと)の祖母が特殊詐欺被害に遭ったのは、半年前のことだった。
五月のある昼下がり、一人暮らしの祖母のもとに、一本の電話がかかってきた。
──私はお孫さんの会社の同僚です。お孫さんが、交通事故に遭いまして重傷です。治療にさいして、至急まとまったお金が必要です。お孫さんが、頼れるのはお婆ちゃんだけだと訴えているのです。
祖母の口座には、二百万の預貯金があった。年金をこつこつと貯めた二百万だ。祖母は、健人が事故で重傷だと聞いて気が動転し、自宅を訪問した同僚を名乗る男に言われるがままに銀行カードを渡した。
このとき健人は、近所のパチンコ屋でスロットを回していた。
そもそも無職の健人に、会社の同僚などいないのだ。
この一件で、祖母は警察への相談を渋った。おそらくは世間体を気にしていた。父母は、被害届を出せば二百万を取り戻せるかもしれないじゃないか──、そう説得を試みた。祖母は頑なに押し黙って、首を振るばかりだったという。




















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