「この給料泥棒が!」部下を罵倒し続けた38歳パワハラ上司が"社会的に"抹殺された恐怖の復讐劇 『子供部屋同盟』1章④

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たぶん万次郎氏は、何も答えてはくれないだろう。なにせ犯罪行為すら厭(いと)わない集団なのだ。が、意外にも万次郎氏は同盟について詳しく話してくれた。

同盟に入りませんか?

──我々、子供部屋同盟は、首領をトップとして組織化されています。各部署はTOR上のチャットでやり取りをしていて、実のところわたくしも他のかたとはほとんど面識がありません。えぇ、タイソン二世はこと暗殺術に長けてましてね。わたくしが言うのもなんですが、非常に危険で、非常におそろしい男です。

──なぜ金銭ではなく、あのような動機レポートで依頼を請け負ってくれるのでしょう?

──動機は砂金です。

──砂金?

──砂金は我々に、莫大な利益をもたらします。

何やら抽象的な話で、おそらくここはあまり突っ込んではいけないのだろうと察した。

──親切にお答えいただきありがとうございます。あの後、私の劣悪な職場環境は著しく改善し、日々、生きる喜び、働く喜びを感じています。なんとお礼を言っていいものか。

──いえいえ、お礼も何も。すべては、あなたの動機が本当だったからです。もしお礼をしてくれるというなら、そうですね、L38番さん、あなた何か特技はありますか?

──いえ、私はしがない会社員でして、とても人に自慢できる特技などありません。せいぜいプラモデルくらいでしょうか。

──プラモデル?

──はい、学生時分にプラモデルにハマっていまして。いやこれは特技というか、たんなる趣味ですね。

──そのプラモデルのお写真を、何枚かアップロードしてもらえますか?

太一は自身で塗装まで施した1/35スケールの74式戦車の写真を、何枚かアップする。

──L38番さん、あなたも人が悪い。素晴らしい才能をお持ちではないですか。L38番さんも同盟に入りませんか? あなたの才能は、きっと我が同盟に役立つときがくるでしょう。

──私のような者でよければ、ぜひとも。ところでもう一つお訊きしたいのですが、なぜ“子供部屋”同盟なのでしょう?

──それは我々の多くが、すでに大人でありながら、子供部屋に住んでいるからです。

──子供部屋?

──社会から冷遇され続けた子供部屋おじさんのルサンチマンは、ついに臨界点に達したのであります。

高橋 弘希 小説家

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たかはし ひろき / Hiroki Takahashi

小説家。青森県十和田市生まれ。2014年、『指の骨』で第46回新潮新人賞を受賞。2017年、『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』で第39回野間文芸新人賞を受賞。2018年、『送り火』で第159回芥川賞を受賞。他の作品に『朝顔の日』『スイミングスクール』『高橋弘希の徒然日記』『音楽が鳴りやんだら』などがある。

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