アニメと結末が違う?実写映画《秒速5センチメートル》ストーリー構成"改編"の吉凶。ロマンチックだけど「リアルで残酷な物語」を徹底レビュー

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本作は、ナイーブなロマンチストである男の子の物語だ。それは世の男性、誰もが持っている一面かもしれない。子どもの頃のある時期の思いは特別なものであり、それは時を経て色褪せることはあるが、決して消えない。ふとした瞬間にその感情はよみがえる。

貴樹に共感する男性は多いだろう。誰もが大なり小なり抱えている感情が、この物語のベースにある。

一方、現実を強く生きるリアリストの側面を持ち合わせる多くの女性にとっては、感情移入しにくい物語かもしれない。これは男の子の心の物語なのだ。

「秒速5センチメートル」
高校時代の貴樹。青木柚が演じた(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会

ラストに向けたミスリードがある

小学生から高校生までの期間を見ると、男の子の内面がいつまでも子どもであるのに対して、女の子の成長は早い。あっという間に成長して大人びていく。それはその後の人生にも残酷につながる。そんな現実が本作には映る。

実写版には、ラストに向けたミスリードがある。それが明かされるとき、2人のすれ違いは、男性の観客にとって心の痛みになるかもしれない。そこには一般的な叙述トリックのようなカタルシスはない。生じるのは、切なさと寂しさ、そして現実のつらさだろう。

「秒速5センチメートル」
(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会

しかし、ラストで貴樹の心は解き放たれる。どこか内に閉じていた彼は、社会にも、明里以外の女性にも、正面から向き合えるようになる。本作は、彼の心の呪縛からの解放の物語であることが最後にわかる。そしてそれは、原作アニメのラストシーンのひとつの解釈につながる。

本作は、残酷な現実をセンチメンタルに描いた新海誠監督の名作の実写化だ。鑑賞後には、新規の観客だけでなく、コアファンを含めて、誰もが改めて原作アニメに戻りたくなるだろう。実写版にはそんな物語の力が宿っていた。

新海誠監督作品の初めての実写化となった本作。その内容にすっかり心を打たれ、原作アニメの素晴らしさを改めて痛感したいま、個人的には『雲のむこう、約束の場所』(2004年)の実写化を心待ちにしている。

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武井 保之 ライター

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たけい・やすゆき / Takei Yasuyuki

日本およびハリウッドの映画シーン、動画配信サービスの動向など映像メディアとコンテンツのトレンドを主に執筆。エンタテインメントビジネスのほか、映画、テレビドラマ、バラエティ、お笑い、音楽などに関するスタッフ、演者への取材・執筆も行う。韓国ドラマ・映画・K-POPなど韓国コンテンツにも注目している。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク系専門誌などの編集者を経て、フリーランスとして活動中。

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