アニメと結末が違う?実写映画《秒速5センチメートル》ストーリー構成"改編"の吉凶。ロマンチックだけど「リアルで残酷な物語」を徹底レビュー

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原作アニメと実写版の大きな違いは、原作アニメでは描かれないラストが、実写ではひとつの答えとして明確に映されていること。

原作アニメのラストは、踏切で電車が通り過ぎたあとに振り返る貴樹の表情が映り、そこからの彼の変化とその先の未来は、観客それぞれの解釈に委ねられていた。

一方、実写版の後半には、前者では描かれなかった2人の会えなかった時間が解像度高く映される。それは原作の3話を掘り下げつつ拡張したシーンになるのかもしれない。実写版オリジナル設定の貴樹の行動とその結末に加えて、背後にある明里の思いと彼女の人生がしっかりと描かれる。

この改編には、コアファン向けの独立系アニメ(上映時間63分)だった原作と、マス向けのメジャー配給の実写大作(同121分)の違いが如実に表れている。後者は、誰もが理解できるように、はっきりとしたわかりやすい結末が求められる。実写版はそういうラストになっている。

終幕後には原作と異なる余韻がある。ただ、それは決して改悪ではない。どちらが良い、悪いではなく、それぞれに心を揺さぶる作品の力があり、同時に原作が描いた心象風景の深さを改めて思い起こさせる。

両作とも伝えるメッセージは同じだが、原作を知らない観客とコアファンそれぞれにとって感じ方の異なる作品になるだろう。

「秒速5センチメートル」
木竜麻生は貴樹の同僚を演じた(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会
2025「秒速5センチメートル」
科学館の館長を演じた吉岡秀隆(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会

誰もが抱いたことがある感情の物語

実写版では、貴樹に対する明里の気持ちが、原作アニメよりも明確に映される。そこには、2人にとっての16年という時間と、それぞれが歩んだ人生がある。

2人はお互いをずっと思い続けていたわけではない。それでも貴樹にとっては、心のなかの奥深くの大事なものとしてずっと存在し、それがふとした瞬間に現れていた。

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