スタッフたちがいとも簡単に「おせっかい」を焼けるのは、「おせっかい」をするための予算がついているからだ。「おせっかい予算」は、宿によって違うそうだが、だいたい1施設につき月6万円程度。この範囲内なら自由な発想で「おせっかい」ができるという。
また従業員向けの福利厚生の中には「おせっかい表彰」なるものまで存在する。これはその月にもっとも素晴らしい「おせっかい」をした人を月間MOP(Most Osekkai Player)として表彰、この中から半期MOP賞も選ぶ、というものだ。
半期MOP賞には、副賞もついてくる。この副賞も素晴らしく「おせっかい」。一律のものはなく、本人の好みに合わせて予算内で副賞を用意している。例えば、ディズニー好きの社員に与えられた副賞はディズニーリゾート2泊3日の旅だった。
“非効率さ”こそが人の心を動かす
人手不足と言われる旅館業界では、朝食のみの提供にしたり、食事そのものの提供をやめたりしたところも多い。自動チェックイン機の導入も進み、宿に泊まっても、宿の人とのふれあいを持たずに終わるところも増えてきた。
そのような動きと真逆を行くのがNazuna。だが、このNazunaの「おせっかい」に魅了され、再びこの宿を選ぶ人がいる。「おせっかい」は伝染するのか、「この宿いい!」と思った客は、自分の友人や家族に「京都に行くならここの宿!」と「おせっかい」にも勧めてくれる。
また、「おせっかい」は単なるサービス指針を超え、企業文化そのものとなっている。従業員の創造性を尊重し、客との新たな関係性を築く土台となった。
Nazunaの「おせっかい」は、単に心温まるエピソードとして語られるだけのものではないだろう。そこには、宿泊業のあり方そのものを変えようとする挑戦がある。
効率化やDX化が進み、人と人との関わりが減っていく現代において、「おせっかい」は非効率の象徴のようにも見える。しかし、同社はむしろその“非効率さ”こそが、人の心を動かす力になると信じているのだ。
スタッフ一人ひとりが自分の感性で、相手のためにできることを考え、行動する。その結果、宿の中に自然と温かな空気が生まれ、滞在そのものが味わい深いものとなるのだろう。
Nazunaの「おせっかい」にはマニュアルにはない人の温もりがある。「おせっかい」という哲学が、宿泊業の未来に古くて新しい可能性を灯している。

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