「何で今日のお昼はパン1個なの?」 ベストセラー作家ブレイディみかこさん、貧乏だった高校時代の記憶 "泣きごと言えない"社会の背景にあるもの

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――多様性も本当の意味から遠ざかって使われてしまう、ということですか。

そうなってしまっているんじゃないですかね。多様性反対って言ったって、すでに足元にあるものをどうするんだって思います。そもそも、人はそれぞれ違うんですから。

貧乏だった高校時代、「言えなかった」記憶

――みかこさんは著書の中で「苦しいって言えない日本人」と書いています。多様性どころか、格差や分断が日本人を「苦しい」と言えない状況にしているのかな、と。

言えない社会って問題ですよね。でも、それは私も思い当たるところがあるんです。

私ね、中学校まではヤンキーが多い地元の学校に通っていてね。そこは割とどの家庭も環境が似ていたというか、わが家よりもっと複雑な家庭もあったから、別に私も家のこととかを正直にまわりに話せていたんです。

ところが、高校で進学校に行くようになると、まわりがけっこう裕福な家庭の子ばかりになってしまった。そういう環境だと言えないんですよね。友だちが「何で今日のお昼はパン1個なの?」って聞いてきても、「お金がないから」って言えないんですよ。

――恥ずかしくて、言えなかった?

というか、そう言ってしまったときの、友だちの表情――「どうしたらいいんだろう」という困惑した雰囲気がね……。私の家が貧乏であることで、この人たちを傷つけてしまったのではないか、という気持ちになったんですよ。なんかちょっと、こういうことはヘヴィすぎるんじゃないかと。もちろん、あの頃は「1億総中流」といわれていた時代で、「貧乏人は、日本に存在するわけがない」という雰囲気というか、時代背景もあったわけですけど。

一方で、今はネットを見れば、貧困化や衰退といった言葉があふれているし、生活が苦しい人の話もよく記事になっている。あの頃とはまったく日本の社会状況も違うのに、苦しいって泣きごとを言えない、カムアウトできない社会が続いている。それはなぜだろうと考えると、その背景にあるのが私たちの他者への想像力、つまりエンパシーの足りなさなのかもしれないって思うわけですよ。

でも、解決策がないわけじゃないって思っているんです、私は。

【後編を読む】作家・ブレイディ氏が思う"日本に足りない”もの
SISTER“FOOT”EMPATHY
『SISTER“FOOT”EMPATHY』(集英社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします
ブレイディみかこ
ライター・コラムニスト。1996年より英国在住。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で第16回新潮ドキュメント賞受賞。19年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品に『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(KADOKAWA)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)などがある。
鈴木 理香子 フリーライター

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すずき りかこ / Rikako Suzuki

TVの番組制作会社勤務などを経て、フリーに。現在は、看護師向けの専門雑誌や企業の健康・医療情報サイトなどを中心に、健康・医療・福祉にかかわる記事を執筆。今はホットヨガにはまり中。汗をかいて代謝がよくなったせいか、長年苦しんでいた花粉症が改善した(個人の見解です)。

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