「何で今日のお昼はパン1個なの?」 ベストセラー作家ブレイディみかこさん、貧乏だった高校時代の記憶 "泣きごと言えない"社会の背景にあるもの
――10代の子たちのほうが自分たちのことを俯瞰的に見ているのかもしれないですね。みかこさん自身は、どうやって経験を積んでいるのでしょう。
いろいろありますが、最近は若い世代、息子とかが「いいよ、これ!」ってすすめるものを見たり聞いたりすることが多いです。取材も兼ねて。息子は大学生で19歳になりましたけど、彼やその友人たちを見ていると、今どきの大学生がやってることとかがよくわかる。あ、世の中はそういうふうになってきたのねとか、アップデートされる部分はあります。
息子も大学に入って寮生活を始めて、いろいろと経験を積んでいるみたいです。どこも一緒だと思いますが、イギリスの大学も資金難で留学生をたくさん受け入れていて。留学生って授業料を本国の学生の3倍ぐらい払うから。それもあって、大学にはいろいろな国の人がいる。彼もそこでいろんな人たちと出会って、いろんな考え方があることを知ったみたいですね。

多様性「本来の言葉の意味が取りこぼされている」
――自ら新しいテリトリーに踏み出していっているんですね。
と言うより……、(踏み出して)行かざるをえないって感じですね(笑)。でもそれって彼だけの話じゃなくて、イギリスってそういう国なんだと思うんですよ。
多様性、ダイバーシティっていうと、みんな“多様性推進”のことだって考えがちで、どうも多様性を“政策”だと思っているふしがあるんです。けれども、多様性って本来“いろんなものがある状態”のことじゃないですか。そこに足を踏み込む・踏み込まないとか、ダメ・いいとかじゃなくて、そこにある事実として受け入れて、乗りこなしているっていう感じなんですよね。
――なるほど、日常にあるってことですね。
今の多様性という言葉に対する意識って「シスターフッド」という言葉とも似ていると思うんです。というのも、実は昔からシスターフッドっていう言葉は存在していて、それは単なる女性同士のつながりとか、姉妹のような関係という意味だったわけです。
ところが、シスターフッドがいわゆるフェミニストの70年代の女性解放運動のスローガンになってからは、政治的な意味でも使われるようになった。その結果、本来の言葉の意味が取りこぼされている局面もあるんじゃないかなって。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら