「何で今日のお昼はパン1個なの?」 ベストセラー作家ブレイディみかこさん、貧乏だった高校時代の記憶 "泣きごと言えない"社会の背景にあるもの
――それってエンパシーにもつながると思うんですけれど、自分に心地よい情報や経験だけに囲まれていると、それ以外のものへの理解が深まらない気がします。
私、エンパシーのことを「他者への想像力」ってよく書いているんですけど、想像力のネタというか、想像力を働かせる基盤がなければ、誰も何も想像できないわけです。
例えばですけど、「この人はどういう環境で育ってきたんだろう」って想像を巡らせても、その環境に身を置いたこともなく行ってみたこともなければ、本当のところはわからない。でも、いろんな経験をしていれば、想像のネタになるものが蓄積される。だから、スマホによって経験が奪われてしまえば、エンパシーが適正に働きにくくなるのかなっていう気がすごくしますね。自分が想像している他者の靴が、実際に他者が履いている靴とは全然違うこともあるし。

SNSで脳が腐る?
――自分に境遇が近いとか、同じ考え方を持つとかだと、「あ、わかる、それ!」ってなりますけどね。
今って、アルゴリズムの関係でネットやSNSには自分が見ている情報に近いものばかりが出てきます。そういったことを我々は自覚すべきでしょうね。
そういえば、昨年オックスフォード辞書が選んだ流行語※が「ブレインロット(脳腐れ)」だったんですよ。これって、アルゴリズムで流れてくる情報を延々と見ていると、脳が腐ったような状態になるっていう意味らしくて。
※オックスフォード英語辞典の出版元、オックスフォード大学出版局が毎冬発表する恒例の「Word of The Year」のこと。
――脳が腐るって(笑)。
実は、これを流行らせたのはティーンの子たちなんですよ。10代の子がTikTokを見ながら自嘲的に「最近、ちょっとブレインロットかも」とか言い出して。息子もよく使っています。
これって面白いですけど、「ネットばっかり見ていたら、脳が腐るぞ」って、いかにも大人が言いそうなことじゃないですか。それを若い人たちが自主的に言い出している。つまり、こんなのばっかり見ていたら世界は広がらないし、ちょっとまずいのではないか?みたいなことに、SNSネイティブな10代の子たちのほうが気づき始めたっていうことだろうから、時代が変わる兆しじゃないかと分析している識者もいます。
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