「流通にほぼ乗らない」揖保乃糸の激レア"兄弟パスタ"。手延べ製法で生まれる「1年寝かせ麺」の実力と、リピーター続出を支える3軒の革新者

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「龍の夢PASTA」は2014年に組合が開発した商品で、一般的なパスタ原料であるデュラム小麦を使い、そうめんの手延べ製法で製造される。

龍の夢PASTA
「龍の夢PASTA」。つるりとした喉ごしと柔らかさのなかにコシを感じられる食感が特徴(筆者撮影)
麺乃家
ジャズが流れる落ち着いた空間で食事を楽しめ、とくに女性客に人気がある(筆者撮影)

前例のないメニュー開発に、2カ月

いちわオーナーの金谷真美さんに話を聞いてみることに。

「製麺工場は祖父の代からはじまり、正確にはわかりませんが80年は続いています。現在両親と私たち夫婦で運営していて、主人が3代目として2019年に事業を継ぎました」

いちわを始めたのは、金谷さんの「いつか飲食店を開きたい」という夢と、製造のオフシーズン(6〜8月)にも収益を確保したいという考えが重なったから。

「普通のそうめんでは面白くないので、希少な手延べパスタをメニューにしました。ただ、一般的なパスタとは特性が違い、調理のコツをつかむのに本当に苦労しました。麺がくっつきやすく、スープを吸いやすい。塩分があるので調味の加減も難しくて……。温かいパスタの前例がなかったので、2カ月間、毎日ひたすら試作を続けました」

麺乃家
生ハムのクリームパスタ(1400円)。冷製より温パスタのほうが人気。どのメニューもまんべんなく出るという。スープは通常パスタの3〜4倍の量。麺に吸収されるため出来立てすぐと後の食感が全然違い、ナチュラルに味変を楽しめる逸品だ(筆者撮影)
麺乃家
一般的なパスタより、つるりと喉ごしがよい(筆者撮影)

オープンから1年ほどは「こんなのパスタじゃない」という辛口の声も少なくなかった。それでも、手延べパスタならではの細麺の上品な味わいを好むファンが少しずつ増えた。店頭では乾麺だけを購入することもでき、スーパーでほとんど販売していないため、これだけを買いに訪れる客もいるという。

揖保乃糸の製造は規模や人員に制約があるため、生産量の拡大には限界がある。そんななか、製造オフシーズンとブランド力を最大限に活用した飲食事業は、第2の収入の柱となった。揖保乃糸パスタという新たな魅力が、地域の観光資源として龍野城下町全体の価値を高めている。

2軒目の生産者は森口製粉製麺。いちわと同じように製麺所だけでなくレストラン「麺乃家(めんのいえ)」も営んでおり、5代目・森口暢啓(まさひろ)さんがオーナーを務めている。

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