「流通にほぼ乗らない」揖保乃糸の激レア"兄弟パスタ"。手延べ製法で生まれる「1年寝かせ麺」の実力と、リピーター続出を支える3軒の革新者
秋からの製造が始まると、早朝に立ち込める小麦の香りを胸いっぱいに吸い込んで1日をスタートさせるのが筆者の日課だが、工場内でどんな作業が行われているのかまでは知らなかった。灯台もと暗しとはこのことだ。
筆者宅から徒歩で、谷口製麺所の谷口勝美さんを訪ねた。


谷口製麺所は1977年、今から48年前に創業。1軒目で紹介したいちわが80年前、2軒目の森口製粉製麺が140年前という事実を踏まえても、比較的新しい工場だとわかる。
「50年前は林業や農業と兼業する人が多かったんです。うちももともとは農業が主でしたが、そうめん製造だけで生活できるようになり、一本化しました」
谷口さんは次男で、家業を継ぐ気持ちはまったくなかった。地方銀行員として働いていたが、父が体調を崩してしまったことをきっかけに「僕が親父の仕事を継ぐわ」と決意。2000年に2代目となった。
2013年には、食品衛生管理の必要性が高まったことを受け、HACCP対応の新工場を新設。個人工場としては大きな投資である。なぜ迷わず踏み切れたのかと尋ねると、答えは明快だった。
「そうめんを作ることだけに集中できるからですね。作ったものは組合がしっかり販売してくれますし、製造量に応じた収入を得ることができる。だから、品質向上のためなら思い切った投資もできます」
原材料の調達から販売、品質チェック、技術指導まで、組合が一貫して担う仕組みがあるからこそ、生産者は製造に専念できる。この連携体制が、トップブランド揖保乃糸を支える大きな強みなのだ。
取材中も、組合の運送トラックが到着し、そうめんを保管する専用箱を返却していった。日常の一コマからも、連携の強さが伝わってくる。

組合の理事も務める谷口さんに、この体制についてどう感じているかを聞いた。
「組合では毎年、その年の小麦粉で試作したそうめんを評価し、生産方針を決めます。その説明会には生産者全員が参加するので、地場産業ならではの横のつながりの強さを実感します。組合が生産者をしっかりサポートしてくれる安心感は、本当に心強いですよ」
オフシーズンは長期休暇?
現在は奥様、そして27歳の息子さんとともに製造に取り組んでいる。息子さんは高校卒業後、外部就職はせず家業を選んだ。「記事にしなくてもいいんですけどね」と、谷口さんは笑顔でこう話してくれた。
「シーズン中は朝2時に起きて、息子と一緒にパンを焼いて食べるのが日課です。製造が終わるのは夕方4時半か5時くらいですね。息子はキャンプや車中泊が趣味で、北海道をぐるっとまわったりもしています。6〜8月のオフシーズンに長期休暇が取れるのが、この仕事の魅力だと言っていますよ」
シーズン中は製造に集中。オフシーズンは設備を整え、心身ともにリラックスさせる。このメリハリある働き方こそが、600年続く揖保乃糸の伝統を次世代へとつなぐためのヒントになるのかもしれない。
9月に入り、朝晩の暑さが少し和らいできた。2026年の夏に向けて、そうめん職人たちの本格シーズンがはじまる。
前編:揖保乃糸「パッケージ通りに湯がけば別格の味!」年間1億8000万食の圧倒的シェア、SNSで愛され続ける120年ブランドが“夏の王者”であり続ける訳
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