日銀の追加緩和は永遠にないと断言できる 過去の発言と整合を取る必要などない

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一つは、昨年10月に追加緩和をした、現在は昨年よりも状態が悪い、昨年やって今年やらない理由はない、だから追加緩和をするというロジックである。

これは、昨年と今年は違うということに尽きる。私は昨年も追加緩和するべきではなかったと考えているのでちょっと異なるが、現在の日銀および黒田総裁の考えは、昨年は必要だったが今年は必要ではない。なぜなら、昨年はインフレ期待が高まる中での、原油の予想外の急落、しかもそれが長期にわたるトレンドとして起きたために、インフレ期待が反転して将来の物価に対する見通しが混乱するリスクを未然に防ぐために、追加緩和を行ったのである。

つじつまを合わせる必要はない

今はどうか。インフレ期待は安定している。それは、簡単に2%は達成できない、という低位の期待で安定しているのであるが、ともかく安定的である。これが追加緩和でどうなるか。安定的な期待インフレ率が急騰するのか。ありえない。

もう一つは、10月30日に経済・物価見通しの展望を日銀が政策決定会合と同時に発表することだという。そうなると、物価の見通しは下方修正され、2%の達成時期の見通しも大きく後ズレする。日銀サイドの物価の見通しが今までと変わるなら、追加緩和をして2%達成への石を見せないとつじつまが合わない、というものだ。

つじつまなどどうでも良い。日本経済に悪影響のあることをやって、過去の発言と整合を取ることなどしたら、それこそ、世間から激しく非難される。ポジショントークをしていた人々もそれに加わり、追加緩和の失敗を責め立てるだろう。もし永遠に2%が達成できず、それで日本経済に問題が生じず、順調であり、ちょうど良い緩和状態であるならば、2%になるという見通しを変えるだけのことだ。2%のインフレが望ましい経済から、それ以下の水準が望ましい経済に変化しただけなのだ。

金融政策は、経済にとってベストの政策を、それぞれのタイミングで行えばいい。物価見通しを発表して市場関係者やメディアに記者会見で責められようが、日本経済のために信念を持ってベストの金融政策を打ち出していると自信を持つ黒田総裁は、再び自信を持って、現状維持の政策を説明するだろう。

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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